夏になると、朝夕に、西上方から霧が入り込む
「一番寒い冬を過ごしたのは、サンフランシスコでの夏だ」トムソーヤの冒険やハックルベリー・フィンの冒険を書いたマーク・トゥエインの有名な言葉だ。
アメリカ西海岸というガイドブックには、青い空とサーファーを追っかける大きな波がバックになって、ビーチボールをするビキニ姿の金髪女性や、フリスビーなどを楽しむ黒く日に焼けたマッチョなかっこいいお兄ちゃんたちのスナップ写真が収まっている。でも、それはカリフォルニア州南部の風景。ロスアンジェルスやサンタ・モニカ、サンディエゴのビーチを覗けば、そんな風景がある。
でも、そこから630キロも北に位置するサンフランシスコで、同じ風景を期待してもらっても困る。ガイドブックのイメージをいだいて、Tシャツとショートパンツでサンフランシスコにやってきて、寒~い思いをした人はいないだろうか。
サンフランシスコでは、冬、雨がよく降る。一年分の降水量はこの時期の雨の量とほぼ一致する。夏、雨はほとんど降らず、毎日青い空がのぞく。でも、汗をかくほどに熱い日はなく、気温は25度ぐらいまで上がればいいところ。湿度なんてないも同然。夏だって、日が沈めば寒くなる。
だから、日本のように、"衣替え"なんていう発想はない。クローゼットの中には、一年中、コートやジャケットなどの分厚い衣類からTシャツ、ショートパンツなどの夏服まで入っている。冬でも夏でも、ちょっと暑ければ、一枚脱ぐ。寒ければ一枚はおる。どの厚さの衣類を何枚重ねて着るか、その日によって決めるという感じだ。
サンフランシスコは、市内の中でもエリアによって天候や肌に感じる気温が随分と違う。西側を太平洋、東側をサンフランシスコ湾に接し、ゴールデンゲートブリッジがそれを上から見下ろすような格好で、その両方が北側で合流している。また、市内には、ツインピークスを元として大小の丘が散在している。
そんな地形から、夏になると、朝夕に、西上方から霧が入り込んでくる。空は晴れているにもかかわらず、その下に深い霧が層になって立ち込めて、太陽の光をシャットアウトしてしまう。
ツインピークスや高い丘など出っぱったところは霧に覆われ、それより低い場所は霧の層の下に入り込んでしまう。いつも霧の層の下に入ってしまうダウンタウンでは、大きなビルの谷間を、寒い風が吹きぬける。
また、霧の層の中に入ってしまうと、冷たい水滴の粒が風の力を借りて濡れた衣服のようにまとわりついてくる。寒いとしかいいようがない。冬は全体的に気温が低いから、夏はこの霧と風のために、結局、一年中、ジャケットやコートが必要ということになる。
サンフランシスコを訪ねる計画をしている人。冬はもちろん夏でも、スーツケースにジャケットなどをお忘れなく!