観光客で溢れかえる刑務所
サンフランシスコ湾に浮かぶアルカトラス島。クリント・イーストウッド主演の"アルカトラスからの脱出"でお馴染みの刑務所の島。サンフランシスコを訪れる観光客の中でも、多くの人がこの島に足を運ぶ。
1770年、スペイン人が初めてこの島を見つけて、"Island de los Alcatraces"(ペリカンの島)と名づけて、スペインの領地と宣言したが、1848年、スペインと米国の戦争の結果、この島はアメリカの所有となる。それから、この島はサンフランシスコを守衛する軍の要塞地となった後、軍用の刑務所となる。
ところが、湾に浮かぶ島に建つこの刑務所を維持するには高額な費用がかかり、その重荷に絶えかねた軍は、1933年、その所有権を米国司法省に譲渡して、以後1966年まで、一般市民の犯罪者を収容する政府の刑務所として活用することになる。
この刑務所での暮らしはどんなものだったのだろうか。各独房は二畳半ほどの細長い小さな部屋で、狭いベッドと、その向こう側に隠れるように便座が置かれ、横に壁にくっついた小さな洗面台がある。天井はやや低め。そんな独房が一列に何十と並び、三層に積み重なって、廊下を挟んで両側に広がっている。
建物には廊下が平行して何列かあり、全部で二百五十以上もの小部屋、独房がおさまっている。暴力が予想される危険な囚人には、日の光の全く入らない独房が用意されている。部屋には小さな電球さえもない。全くの暗闇の部屋。想像もつかないような辛い刑罰だ。
刑務所の中には収容者が一斉に食事をとる大きな食堂がある。守衛にとって、食堂は最も気を使うところだったようだ。囚人の手にナイフとフォークが渡されるからだ。極悪の犯罪者にとれば、食事用のナイフといえども立派な武器となる。実際、何人かがそのナイフで刺されるという事件が起こっているとか。200人以上もの気の荒い囚人が、手錠などの拘束もなく一箇所に集まるのだから、いつ何が起こってもおかしくない。
刑務所の横に突き出した敷地は、収容者のためのレクリエーションの場。高い塀に囲まれたその庭は、外の空気を思いっきり吸うことができる息抜きの場所だ。小さな独房を出て、この庭で手足を伸ばすのは何にもかえがたい喜びだったのかもしれない。
地下には、大きなシャワールームがある。何本もの配管が天井をはう。守衛の監視のもとで中央に集められた囚人たちが一斉にシャワーを浴びているシーンが目に浮かぶようだ。あのアル・カポネもこの刑務所に収容されていたが、ここでシャワーを浴びたのだろうか。
長い間、刑務所としての機能を果たしたアルカトラス島は、その後1972年、ゴールデンゲート・レクリエーションエリアとして国立公園とされ、多くの観光客を迎えるようになる。観光客で溢れかえる刑務所から、今、その暗い面影はどこにもない。