霧のゴールデンゲトブリッジ

すでに1200人以上

ゴールデンゲートブリッジ—世界的に名の知られたこの橋は、サンフランシスコの代名詞と言ってもいいのかもしれない。
青い空に映えてそびえる鮮やかなオレンジ色のその壮観な橋は、映画やテレビのスクリーンのなかでさえ、決して忘れることのできない不思議な魔力をかもし出している。

この美しい橋は、悲しい一面をもっている。自殺者をも魅了してしまうところだ。1937年に完成したこの橋。そのわずか10週間後に、最初の自殺者がこの橋から飛び降りてしまったとか。今日までに、すでに1200人以上もの自殺者が数えられている。心の痛む結果だ。

サンフランシスコとサウサリートを結んで南北にまたがるこの橋。橋のどの位置からどちらの方向に向かって人々が飛び降りたのかという数字がまとめられている。
その出来事が起こった地点は、1.7マイル(2.7Km)にも及ぶこの橋の全体に渡っているようだが、方向についてみると顕著な差があらわれている。サンフランシスコ湾側(東)に向かって飛び降りた人たちの数が、太平洋側(西)に向かってのその数を圧倒的に上回っている。

橋に立って東側を向いて眺めてみると、右手前方には、マリーナのハーバーやレンガ色のパレスオブファインアーツ、坂に立ち並ぶ家々など、サンフランシスコの街並みがひろがっている。湾には白い帆を立てて散在するヨットが風に運ばれていくのが見える。遠くにはアルカトラス島が、またエンジェルアイランドも視野に入ってくる。

ちりとなって消えていった人たちにとって、目の前にするこんな景色はどのように映ったのだろうか。西側に向かっての風景に比べて、圧倒的に美しさが勝るこの東側をながめ、最後の瞬間をしっかりと胸に焼き付けるには、充分に美しい風景とでもいうのだろうか。

現在、自殺者を魅了するこの橋に、自殺防止用の柵を作ってはどうかという案が協議されている。これをめぐってはもうかなり長い間、論争が続いている。反対派は、柵が作られるとその美しい橋の景観がそこなわれることや、17億円とも30億円ともかかるとされる柵の作成工事費を、限られた数の自殺を防止するというだけのためにかけるのは費用の無駄使いであること、などをその反対理由に挙げている。
賛成派から言わせると、たとえその恩恵を受ける人たちはわずかな数の人たちであっても、人の尊い命を守るという意味を尊重すれば、多大な経費をかけてでも、少々景観を損なってでも、その意味はあるとの主張だ。さて、結論はどうおさまるのだろうか。

この時期になると、いつものようにゴールデンゲートブリッジは上部が霧に覆われ、その姿がさらに妖艶に変化する。なんとか自殺者を魅了することなく、観光客や地元の人たちを迎え入れる、美しい橋であることを願ってやまない。

(2006/09)
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