サンフランシスコ・サワードー・スターター
酒やビール、醤油、味噌を作るために欠かせない酵母菌(イースト)は、アミノ酸などを作り出し、体にいいというお墨付き。様々な食物や飲料を生み出すこんな酵母菌のなかに、サンフランシスコに由縁するものがある。酸味のあるサワードー・パンをつくり出す酵母菌だ。
サワードー・パンは小麦粉に水を加えて混ぜ合わせたところに、その酵母菌と乳酸桿菌を入れて発酵させたサワードー・スターター(パン種)を使って作られる。
焼きあがったパンは、皮が固く、発酵の跡がよくわかる大小の気泡が散らばる中身は柔らかい。噛み応えがあって、酸味のある香りと味が口に広がる。魚貝類との組み合わせが特に美味で、フィッシャーマンズ・ワーフでは、中身をえぐって器にしたサワードー・パンに入れたクラムチャウダースープが飛ぶように売れている。酸っぱいパンとトロリとしたスープとのコンビネーションが絶妙だ。
世界中で愛されるこのパン。今ではアメリカ国内だけでなく世界中で作られているが、サワードー・パンが生まれるに至っては、サンフランシスコが重要な役割を果たしている。
19世紀半ば、カリフォルニアの内陸部に金(ゴールド)が眠っていることが発見され、その金を求めて多くの鉱夫がカリフォルニアに集まったゴールド・ラッシュと呼ばれる時期のこと、にわか景気に急騰するサンフランシスコに集まった鉱夫たちが、金の発掘のために内陸山間部に向かう前に手に入れたのが、ここで作られたパン種。
金の発掘を行っている間中、このパン種から作るパンが重要な食料となった。このパン種を使って作ったパンは、ほかのパンと違って、極めて酸味が強く独特な味をしていたところから、のちにこのパン種とパンをサワードーと呼ぶようになったという。
パン種が繁殖していく際に、自然界にいる雑菌などと融合するために、できあがったパンはその土地ならではの味になるというが、独特な酸っぱい味のパンを作り出す、とっておきの雑菌が住んでいたのがサンフランシスコというわけだ。こうしておいしいサワードー・パンが生まれることになり、今日ではサンフランシスコ・サワードー・スターターなどといって、固有名詞のようにしてイーストが販売されているぐらいだ。
パン屋さんでは、次のパンを焼くときのためにイーストの一部を次に使うパン種として保存していくのが常だが、このようにして生き続ける菌が大事に保たれてきたからこそ、サンフランシスコ生まれの美味しいパンが世界中でず~っといただけるというわけだ。
いまではどこでも手に入るこのパン。まだ食べたことのない方は是非ともお試しを。
なかなかおいしいですよ。