壁の落書き

一石二鳥のプロジェクト

「返済ができないなら、体で返してもらおうじゃないか」—サムライ時代のテレビドラマでときどきこんなフレーズがでてきた。
借金の返済ができない弱者に対して、悪徳非道の貸主が返済を強要して、一切合財の金目のものを取り上げた挙句に娘を連れていくというよくある設定だった。

不景気が続いている。サンフランシスコの失業率は先月10%。動きからみると毎月発表されるその比率は底つき加減かもしれないが、10人にひとりが仕事を探しているという割合は軽視できない。そんな人たちが違反切符を切られると、どうして支払っていいのか戸惑う人たちも少なくないと察する。

長引く不景気のために失業問題は公営民営ともに社会に大きな影響を与えている。民間会社だけでなく、市の人員削減数も多くなってきている。こんな状況でも市に対して要求されるサービスが減るわけではないから、本来提供しなければならない市のサービスが手薄になってしまうは必至だ。

Project20はそんな両者のためにある。違反切符を切られたけれどその支払いができない人たちに、労働によって市へ返済をしてもらおうといった策。市がやらなければならない仕事の一部を一定のレートで代わってするといった具合だ。駐車違反切符の支払いは時給6ドル、交通違反切符の支払いは時給10ドルとして計算され、支払い義務のある切符額面から差し引いていき、一定時間市の仕事を手伝うわけだ。

ビルの壁に大きく書かれた落書きを洗い落とす、市内を走る通りの清掃をする、また、通りに沿って作られている路肩やセンターライン沿いにある安全地帯に木々を植えていく、といったような仕事をする。

このプロジェクトは今まで支払いができなくて困っていた人たちに返済の手段と機会を与えてくれる。市にとっては、市民のために行わなければならないサービスなのに人員削減のために怠っていたサービスをなんとか提供できるようになる。
お金が無い人たちに支払え支払えとせっついてみたところで無い袖は振れないのだから。支払う方法をかえてみたというわけだ。テレビドラマでは往々にして主人公が弱者を助けてハッピーエンドに終わったけれど、このプロジェクトは主人公さながら一石二鳥の心強い助っ人ではないだろうか。

違反はしないのが一番よいことだ。でもしてしまったときに、こんな支払い手段の選択肢が与えられるというのは、景気が悪いときだけに助かるような気がする。

(2009/10)
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