借りる側の保護に重点を置サンフランシスコ市
"Pacific Heights"という映画を観たことがあるだろうか。若いカップルがサンフランシスコ市内のパシフィックハイツという高級住宅地区に家を購入する。そして、そのローンの返済をカバーするために二部屋を賃貸するというお話。
日本人カップルがその一部屋を借りる。彼らはごく普通の住人。ところがもうひとつの部屋を借りたのが、マイケル・キートンが演じるところの悪夢のような人物。保証金は払わない。家賃も全く払わない。しっかりと居坐って出てもいかない。おまけに、部屋の中にあるすべてのものを引っぺがしてどこかにもって行ってしまったり、嫌がらせとして沢山のゴキブリを家に放ったりする。
映画のことだから、話が極端だが、その軽いケースとしたら、現実にあっても不思議ではないストーリー。サンフランシスコ市には、家賃に関する厳しい規制(コントロール)がある。それはどちらかというと、部屋を借りる側を保護することに重点を置いている。これは、カリフォルニア州にある市の中でも、テナント側につくという点で、特に飛び抜けている。
アパートを借りる際、家具がついていない部屋の場合、保証金は最大限2ヶ月月分の家賃まで、家具つきの部屋の場合でも、保証金は最大限3ヶ月分の家賃まで、と規制されている。それ以上を請求してはいけない。保証金は、特別、部屋にダメージを与えない限り、アパートを出ていくときにもどってくる。
日本と違って敷金を支払う必要はない。年間に増額することができるアパートの賃貸料も、この規制によってはっきりと決められている。今年は2.8 % まで。過去7年間の率をみてみると、2.9 %、1.7 %、2.2 %、1.8 %、1.0 %、1.1 %、1.3 %と、物価上昇率よりもはるかに低い。でも、この率で大家が毎年必ず賃貸料を上げるというわけではない。通常、テナントが出て行った後、賃貸料をぐっと上げる。
ということで、テナントにとって、同じアパートに長く住めば賃貸料は低くてすむ。だから、同じアパートの同じ間取りの部屋に住んでいながら、家賃が雲泥の差なんてことも。ひと月15万円を支払う住人と、ひと月20万円を支払う住人が隣同士で住んでいてもおかしくない。
大家にとっては、1、2年毎に適当に住人が引っ越して、出て行ってくれるのが理想的なのだが、なかなかそういうわけにもいかない。しかも、もし大家が、アパートの修理を怠ったり、適度な点検等をこまめに行っていない場合、この規制によって、テナントの方が大家を相手どって法的に申し立てをすることができる仕組みになっている。
何せ、テナントは強い。部屋を勝手に改造したり、部屋を異常に不潔にして10年間、15年間、同じアパートに住んでいるテナントは少ないとは言えない。大家にとって、それは、まさしくパシフィック・ハイツのマイケル・キートン、悪夢のような住人に違いない。