治療の必要がない場合が多い「貧血」
皆さんが「貧血かしら」と思うのは、多くの場合「ふらつき」や「めまい」のある時で、用語で言えば以前よく使われた「脳貧血」に相当します。
学校の朝礼の時、長く立っているとバタンと倒れてしまう子供がいますが、ほとんどがこの「脳貧血」、つまり血液の循環の勢いが弱く、脳への血液の供給が一時的に減ってしまうことが原因です。よく「頭を低くして寝かせなさい」というあれです。
最近では「起立性調節障害」と言ったり、「神経循環無力症」などという用語もあります。俗に「低血」というのがこれでしょうか。
何故こんなことがおこるのかというと、血液は、液であって、上から下へ流れるものですから、ふつう立っていれば足の方へダブダブたっまってしまって上半身はカラッポになってしまう筈です。
ところが実際は立っていても座っていても横になっていても、ある場合には逆立ちしていても、全身すみずみまでバランスよく適量の血液が配給されているわけで、パッと身体を起こした瞬間、フラッと立ちくらみしても、一瞬ですむように、迅速に刻々と血液配分量が調節されています。
一人の人間の血管の総延長は地球を半周するとも言われていますが、これを常に一定に保つなんてことは、どんな精巧なサイボーグにもできないことで、この仕事を不断にしているのは、自律神経です。
私たちが意識して血管の太さを調節しているわけでなく、勝手に私たちの意思とは無関係に自律神経に(オートマチックに)この精妙な仕事をしているわけです。
ですから、よく「脳貧血」的な症状にみまわれる方は、自律神経失調症といえます。漢方医学では「気」の問題として「気の不足」を補ったり「気の流れのわるさ」を活発にする方剤やハリの手段があります。
「貧血」は、以前に使われた「脳貧血」、医学的には「起立性調節障害」などと呼ばれる自律神経失調のひとつの症状だとお話ししました。今回の「貧血」は検診の血液検査でよくいわれる「貧血」で、こちらは医学用語としての貧血そのものです。
血液が赤く見えるのは、赤い色素をもっているので赤血球と呼ばれる細胞が、血液という川の流れの中を非常にたくさん流れているからです。他にも白血球や血小板など川の中を流れている細胞はあるのですが、数が赤血球に比べると少ないので、赤血球の色が血液の色を代表しているのです。
血液の流れ自体は不断に血管の内から外へ、外から内へと血管壁を通してしみ出たりしみ込んだりしています。むくんだり、むくみがひいたりする現象です。血管壁の穴が、赤血球が通れるくらい大きくなると、赤血球も血管の外へしみ出ますから、紫のアザになって見え、内出血の状態です。
さて、その赤血球の数や大きさには、健康人を集めて調べてみてもずいぶん巾のあるものですが、一応標準値という巾を定めます。それよりあなたの赤血球が少なかったりすると、貧血というわけです。
貧血はいろんな病気の発見の糸口になる簡単な検査で、癌や膠原病などやっかいな病気が貧血の人から見つかることが少なくありません。しかしそのような方の貧血を見逃すことはまずないので、皆さんは安心してください。
皆さんに多い貧血は、ほとんど「鉄欠乏性貧血」といわれるもので、圧倒的に生理のある女性に多いことは御存知のことでしょう。こういう方で自覚症状のない方は全く治療の必要はありません。
また疲れやすい、フラつくなどの自覚症状は、前に述べた意味での「(脳)貧血」と重なりますから、増血剤などを服用して、赤血球の数が増えて標準範囲に入っても自覚症状は一向に改善されないこともよくあります。
もし増血剤を服用して赤血球の数が増え、明らかに自覚症状も改善するようであれば、増血剤(鉄剤)を上手に利用しましょう。ただ、増血剤は「胃をやられる」ことが多いので、できれば漢方薬のみできりぬけ、時々鉄剤を服用するというのがよいでしょう。
この種の貧血はしばしば生理出血の多さや、子宮筋腫と結びつけて考えられ、手術をすすめられることも多いのですが、あくまでもあなたの「現在のつらさ」と「手術後の予想されるたいへんさ」との比較ですから、あとで他人(医者)を恨まないように、自分で決めましょう。「閉経も間近いからとってしまおう」と「閉経も間近いからそれまで我慢しよう」のどちらかは、貴方が決めることです。医者(他人)の決めることではありません。