13.胆石があるといわれた。

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胆石のぜんぜんない人はおそらくいない

胆石の話をする前にひとこと。新聞紙上で、「4人に1人は癌になる、あなたも癌保険に加入を」といった保険会社のPRをみかけました。あんまりおかしな数字なので、よく読むと、年間80万人の方が亡くなったが、4人に1人の死因は癌だった、というものです。

以前なら、老衰とか心不全といわれていた高齢の方の死も癌の診断がつくとそう呼びますから、平均寿命が延びた現在、癌の割合が増えるのは仕方ありません。
何故なら癌は高齢になると急速に増加する病気ですから。身近な方が40代・50代で亡くなるとショックが大きく、癌恐怖症は頂点に達し、皆さん大なり小なり癌ノイローゼになりますが、年齢別の癌発生率はここ数十年は少しも増加していません。

ここに保険会社のトリックがあります。「この一年間4人に1人が癌で死んだ」わけじゃありませんよ。1億2千万人の生きている日本人のうち、昨年癌で死んだのはたった20万人(80万人の1/4)です。確率は600分の1。人の生涯という長い時間(特に現在は高齢化社会です)を無視して1/4といわれれば、、ほとんど間違いなく癌になると私たちは恐れおののきますが、実は600人から保険料をとっても払うのは1人分ですから、保険会社はホクホクなのです。「人間は4人が4人とも死ぬ」というキャッチフレーズの生命保険会社が儲かっても仕方がない理由も同じです。

胆石についていえば、「胆石のある人はない人より癌になる確率が高い」というデータが出されて、医者が手術をすすめる大きな判断材料となっています。このデータは、いかにも人為的で、疑問箇所はいくつもあって、ひとことでいえばデタラメですが、ひとつ私たちが注意しなくてはいけないことがあります。

例えばかりに、1万人のうち1人の確率で発見される胆のう癌が、胆石のある人では2人になると推測されたとき、新聞の見出しには、「胆石があると胆のう癌になる危険が2倍になる」となるのです。冷静に考えれば、胆のう癌にならない人の数が9.999から9.998になるだけのことで、確かに危ない確率は2倍にはなるが、危なくない確率は1万分の1増えるだけです。たばこと肺ガンの関係なども同じです。

さて胆石ですが、「お腹が痛い」の症状を説明する病名として、胃腸炎・胃腸潰瘍に次いで数多く使われます。
以前は単純X線で写る胆石以外の胆石を確定診断するためには、検査がやっかいでしたが、最近はエコーという簡単な手段で、胆石などいともたやすく見つかります。はっきりしないときでも、胆泥とか胆砂とかいわれます。歯石のない人がいないように、胆石のぜんぜんない人はおそらくいないと思いますが、これを手術していたら、日本中の病院の腹部外科は忙しくて困っちゃうでしょう。

大きな手術痕をつけた患者さんが、やはり手術前と同じお腹の症状で来院されるたび、この方のお腹を切らねばならなかった理由が、果たして当を得ていたかどうか、また、患者さんも自分の症状と医者のいう「胆石」ということばを直結して、「これさえなければ私の腹痛はなおる」と手術をせがんだりしなかったか、いつもため息をつきながら考えてしまうのです。

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