20.100%の完成度がすべてのことに必要?

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カフェ

とても忙しそうな人がいます。マスコミ業界の人ですから、学生や主婦や一般企業の方とは違う時計で動いているのかもしれませんが、いつ会っても忙しそうなのです。
ここ1週間は毎日朝帰り。睡眠時間は取れて3~4時間」とよく言っています。どうしてそんなに忙しいんだろう?と興味を持って、彼女を観察してみました。なるほど、と思いました。

とても頑張る人なのです。手抜きができない人なのです。人に任せることを申しわけないと思っているふしがあり、人にお願いするのなら自分でやってしまおうという方程式の人なのです。いつも時間に追われていて、ずっとフルパワーで動いていて、より高いステージを求めている。完璧主義者でもあります。

たとえば、こんなことがありました。彼女とともに仕事をしたときのこと。依頼されたのはあるミュージシャンのインタビューでした。トータルで10ページ以上の大きな企画ということもあり、数日をかけて彼に密着をしたのですが、ある街角で撮影をしようとしたときにそのミュージシャンが言ったのです。
「ここで真っ赤なフェラーリでもあったら絵になるのにね」。それはもちろん、事前の打ち合わせにはなかった提案で、彼自身、それほど大きな意味を持って言った言葉ではないように感じました。だから私は「あ、いいですね~。街並みに合いそう。でも今日はあるもので完璧な撮影を!」と冗談めかして笑いながら、用意していた車に乗り込んでもらいました。ミュージシャンも撮影スタッフもその流れで取材を進めようとしていました

そこにくだんの彼女が言ったのです。「ちょっと待ってください。(時計を見ながら)まだ時間はありますね。わたし、なんとかして赤のフェラーリを30分で調達しますから、皆さん、お茶でも飲んで休憩していてください」言っているそばから電話を始めました。
私たちはビックリして、彼女の素早い行動力に感服し、近くのカフェでお茶をしました。そして、彼女は公約とおり30分ちょいで赤のフェラーリを調達してきたのです。

言い出したらそれを実行しないわけはない彼女だとわかってはいましたが、私は本当にびっくりして思わず拍手をしてしまいました。居合わせたスタッフ一同、きっと同じ気持ちだったのでしょう。拍手は全員の手から沸き挙がりました。結果として、その盛り上がりのまま、とてもいい撮影となったのですが、でも、私は思うのです。拍手に一瞬昂揚感を見せながらも、撮影が始まるとすぐ、深い溜め息をついていた彼女を見てしまったからかもしれません。
あの「赤いフェラーリは本当に必要だったんだろうか?」。

必要ではなかったでしょう。彼女の努力は素晴らしいと思います。でも、そういうことではないのだと思うのです。出来上がった写真を見ても、車は少しだけ赤い色を映すのみで、それがフェラーリである必要は感じませんでした。もちろん、彼女の頑張りでフェラーリを調達できて、現場が盛り上がりました。ミュージシャンもフェラーリのハンドルを握るほうが魅力的な表情が出来たかもしれません。
でも、フェラーリがなくてもきっと別の方法で現場を盛り上げることはできたのです。なぜなら、私たちはプロだから。うまく説明ができていないかもしれないのですが、あの撮影現場において、フェラーリはマストではなかったということです。彼女に30分間の過酷なプレッシャーを与えるほど、フェラーリが必要ではなかったという言い方のほうがわかりやすいかもしれません。

彼女の行動は常にこのパターンです。要求されたことは、全てきっちりやり尽くす。どんなにハードな要求でも必ずやり遂げる。できてしまうから、次の要求はまた高くなり、それを超えるためにもっと努力をする。そういうループに巻き込まれた人は、常にそういう形で仕事を、あるいは生活をしています。

常にフルスロットルで動いていたら、すぐに燃料切れになります。すぐに折れてもしまうでしょう。痛みも早いに決まっています。
だから、私はいつか彼女に言いたいのです。どこかゆったりと落ち着いた場所で。「100%の完成度がすべてのことに必要だとは限らないよ」って。

彼女にとっては、そういう無駄な完璧主義が自分を支えている時期なのかもしれません。そういう時期があることは、とても大切なことにも思えます。でも、そういう時期を越えたら、彼女にそう伝えたいのです。

幹がきちんとしていればいいんだと思います。一瞬、葉っぱが落ちても、幹がきちんとしていれば、必ず葉っぱは育つから。しなくてもいい無理は幹も腐らせてしまう。そのことをきちんと伝えたいと思っています。

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