超高齢化社会問題
急速な少子高齢社会の訪れがすすみ、「2025年超高齢化社会問題」が盛んに議論されています。2015年には、第一次ベビーブーム世代(団塊の世代)が、前期高齢者と呼ばれる65~74歳を迎え、その10年後には後期高齢者(75歳以上)に全人口の約5人に1人が到達すると予測され、さらにそのおよそ7割の高齢者は、一人暮らし、若しくは高齢者夫婦の世帯になると推定されています。
全国の高齢者の約37%(長命な女性の方が、男性の約2倍)は一人暮らしになるかもしれません。この来たるべき高齢化社会を健康長寿で暮らすためにはどうしたら良いでしょうか。老化に対する医学・医療は最近大きく変わって来ています。加齢で衰える身体機能を知るための、3つのキーワードとそのチェックポイントをご紹介します。
1.ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)
加齢に伴い、身体活動に差し障りがある病気の状態。生理的な筋力や持久力の低下は、1年間に1~2%と言われています。原因は、骨粗鬆症に伴う脊柱管狭窄症や変形性関節症など運動器である、骨・関節・筋肉などの身体を支えたり動かしたりする機能障害によります。ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)が進むと、歩けなくなったり、立ち上がれなくなったりして介護を必要とするようになります。
日本整形外科学会は、7つのチェックポイントを上げています。日常生活の中で、1つでも心当たりがあれば、ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)、ロコモの心配をしましょう。
- 片足立ちで靴下がはけない。
- 家の中でつまずいたり、滑ったりする。
- 階段を上るとき、手すりが必要である。
- 横断道を青信号で渡りきれない。
- 15分ぐらい続けて歩くことができない。
- 約2kg(1リットル入りの牛乳パック2本分ぐらいの重さ)の重さの買い物を持って帰れない。
- 家事の中で重い仕事(掃除機をかけるなど)が困難になった。
詳しいチェックは下記を参照下さい。
日本整形外科学会:ロコモパンフレット
2.サルコペニア(sarcopenia)
ギリシャ語の肉(sarco)&減少(penia)の意味で、加齢性筋肉減少症とも呼ばれています。ロコモティブシンドロームとも関係が深いようです。
サルコペニアの3つのチェック
- 筋肉量減少
- 筋力低下(握力など)
- 身体機能の低下(歩行速度)
サルコペニアの原因
- 加齢に伴う(一次性)。
- 呼吸器や循環器の疾患・悪性腫瘍など(二次性)の病気由来。
- ベットの上での安静状態での身体活動の低下。
- 栄養・吸収不良によるもの。
サルコペニアの予防
- 筋肉運動:8~15回くらい繰り返して行うエクササイズ。無理な負荷はかけず、運動可能な範囲で上腕と大腿の伸筋群を意識しながら2セット行う。
- 散歩するとき、ゆっくりと歩いたり早足で歩いたりと強弱をつける。
サルコペニアの栄養対策
- アミノ酸(筋肉で分解されるバリン・ロイシン・イソロイシン(BCAA:分枝鎖アミノ酸など)をバランス良く摂取。
- カロテノイドを多く含む食品を摂取。
- ビタミンDの多い食材を摂取。
3.フレイル(Frailty:虚弱)
フレイルは、健常者と要介護者との間の状態。高齢者で、サルコペニアと呼ばれる筋肉が減少していく状態が続き、生活機能が低下してくるとフレイル現象に陥ります。運動やバランスの良い食事をすることで防いだり、遅らせたりすることが可能だと言われています。
フレイルの原因
- サルコペニアのような筋肉減少。
- 軽度認知機能障害(認知機能の低下)・鬱状態。
- 一人暮らし・経済的問題。
フレイルの予防
- バランスの取れた食事(特にタンパク質・ビタミン・ミネラル)。タンパク質の不足には十分気をつけ低栄養にならないようにする。
- ウオーキングやストレッチなどの軽い運動を定期的にする。
- 家族の協力などで認知機能をチェックする。
- かかりつけの主治医に、飲んでいる薬の相談をする。
- 主治医に、可能なワクチン接種について相談し、感染症に十分気をつける。
- 病後のリハビリや栄養の摂取に積極的に気を配る。
日本老年医学会は、2014年5月に「フレイルに関するステートメント」を、次のように発表しました。
"frailty"は「虚弱」と日本語で訳され、『加齢に伴って不可逆的(元に戻らない)に老い衰えた状態』という印象を与えてきました。しかし、"frailty"は、「しかるべき介入(食事や運動など)によって、再び健常な状態に戻ることができる」という、可逆性が含まれています。
日本語訳は、今後、『適切な介入をすれば、高齢者のQOLの向上を図ることが可能になる』という意味を理解してもらいやすいよう、「虚弱」に代わって「フレイル」を使用することとなりました。
「メタボ」が一般的になったように「フレイル」も広く使われるようになるかもしれません。
フレイルの前徴現象と予測(米国の事例研究)
2001年、米国メリーランド州のジョンズホプキンス医療機関(Johns Hopkins Medical Institutions)Linda P. Fried 博士(現 Aging and Health センター長)達のグループは、高齢者のFrailty(フレイル:虚弱)現象を明らかにして、共通点や予測できる妥当性を評価し操作できるようにすることを目的に、心臓血管の健康調査(Cardiovascular Health Study)のデーターを研究発表しました。
参加者は、65歳以上の男女5317名、1989年~1990年に無作為に抽出採用されたオリジナルコホート(集団)から4735名と1992年~93年に採用されたアフリカ系アメリカ人コホート(集団)から582名。2集団は、ほとんど一致する基本的評価を受けており、病気や入院、転倒、身体機能や生活障害、死亡などの結果に関する、追跡調査が行われました。
当時、Frailty(フレイル:虚弱)現象は、高齢者の間において、高頻度で見受けられ、転倒・身体機能や生活障害・入院・死亡の危険性が、よりもたらされるようになると考えられていました。フレイルは、身体機能障害・併存疾患(2個以上の医学的な状態が同時にあること)と、同じように見受けられましたが、生物学的基礎や、はっきりとした、注目に値する臨床的に統一された定義はまだ確立されていませんでした。
この研究により、地域社会の中で、在宅の高齢者に、フレイル(虚弱)現象を、潜在的な標準化された定義として条件付け、予測の有効性を提供しています。フレイル(虚弱)現象は、次の基準の内、3つ以上の症状が見うけられる臨床的な症候群と定義づけられました。
- 意識していない体重の減少(10ポンド/年=約4.5kg)
- 自己申告による疲労感
- 筋力低下(握力)
- 歩行速度の減少
- 身体的活動の低下
これらから、frailty(フレイル:虚弱)現象の危険性が高い中間的な段階があると特定できます。
Frailty(フレイル:虚弱)現象は、併存疾患や身体機能障害と同義語ではない。しかし、併存疾患は、Frailty(フレイル:虚弱)現象にとって病気の原因の危険因子であり、身体機能障害は、Frailty(フレイル:虚弱)現象において、病気が進行した結果である。frail(虚弱)だったり、その危険性のある人達にとって、臨床評価のための潜在的根拠を示している。今後、Frailty(フレイル:虚弱)現象の標準化された評価に基づいてFrailty(フレイル:虚弱)現象のための治療介入の研究を進めていく。(訳:tori3tori3)
(Journal of Gerontology:Medical Sciences 2001)
2014年2月、日本サルコペニア・フレイル研究会が、様々な分野でサルコペニア、フレイルに関する研究や活動においてご活躍の研究者達(代表世話人:京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 荒井秀典教授)により設立。
2016年12月2日、日本サルコペニア・フレイル研究会は一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会になりました。2018年4月より、荒井秀典教授は、国立長寿医療研究センター病院長に就任。
参考
要介護の期間を決める「平均寿命」「健康寿命」「健康格差」とは。(1)要介護の状態は男性約9年・女性約13年。
オーラルフレイルの早期気づきが、フレイル予防につながる。