18.アトピー皮膚炎。熱を冷まし余計な水分を除く、「情熱利湿剤」が治療のポイント。

「アトピー」は「よくわからない」という意味

30年くらい前では、アトピー皮膚炎といえば、両親から濃厚なアレルギー遺伝的素因を受け継いだ乳幼児の皮膚炎で、「小学校入学頃には何とかなります。遅くとも小学校5~6年になれば、10人のうち9人までは治りますから」と言い切れたものでした。

またアトピー皮膚炎で悩んでいる乳幼児の数もそれほど多くなく、話題にもなりませんでした。ところがこの20年くらいでしょうか。あれよあれよという間に子供たちの皮膚炎が増加しました。従来の「アトピー皮膚炎」という診断名は大きく変更を迫られ、一方ではどんな皮膚炎も「アトピー皮膚炎」と言い過ぎるという批判もあります。

「アトピー」は「よくわからない」という意味ですから、もともと「原因も治療法もよくわからない皮膚炎」と名付けられたのですが、最近ではますます混迷を深めているといってよいでしょう。

最近の特徴は、遺伝的な素因とは無関係で発症することが多い。幼子児にもっとも多いのが、10代、20代、遅ければ30代、40代にはじめて発症することもよくある、ということでしょう。
「湿疹」本来の湿ったジクジクした湿疹は少なく、カサカサと乾いて痒い、いわば「乾疹」の時代です。

現代のアトピー皮膚炎もその代表で、カサカサと乾燥しているのが特徴です。乾いた皮膚の病変としては「乾癬」(パラパラとコイン状の苔癬が全身に拡がる)と「魚鱗癬」(いわゆるサメ肌のひどいやつで、全身の皮膚の表面が魚のウロコのように見える皮膚の形成不全、魚化異常といいます)の二つが代表ですが、現代のアトピー皮膚炎はこの二つと非常に似ている、という印象があります。たまたまアトピー皮膚炎と乾癬や魚鱗癬が重なっている患者さんがいる、とみるよりも、根は同一と考えたいと思っています。

いずれにせよ、原因はアレルギー体質、免疫異常、という漠然としたことしか分かっていません。急速に増加していることから、環境変化に原因を求めるとすれば、衣服が化学繊維になったこと、食品に添加物が過剰に使われていること、小さな時から何かというと小児科からすぐ薬をもらい服用させる習慣、吸っている大気の汚染、などでしょう。

絨毯のダニも原因の一つといわれます。子供達を巻き込んだ、忙しすぎる人工的すぎるストレス社会のことも、忘れてはなりません。喘息の子供達が転地療養をするように、重症アトピー皮膚炎の子供たちも、区や市の施設を使って親元から離れて生活するのは大変よいことです。もっとも大人にそんなことはできないし、私たちにとりあえずできることは、絨毯を敷かないすっきりした板の間にかえること、食品に気をつけること、くらいでしょう。皆さんよく御承知の「牛乳と卵を断つ」のは、医学界でも賛否両論真っ二つで、結論は出ていません。

「牛乳・卵断ち」でよくなる例があることは事実ですが、例があるというだけで、すべてではありません。ただ牛乳や卵のように添加物が濃厚に入っているものを多量に食べることは得策ではありません。牛乳や卵は他の事情で栄養がとりにくい病人や老人が食べるもので、顎と歯を使って何でも食べさせなければならない子供たちからは遠ざけるべきでしょう。

きれいにしすぎないように

生活の中でとても大切なことはお風呂です。何回も申し上げましたがアトピー皮膚炎の特徴は皮膚の乾燥です。皮膚から自然に分泌されている脂分はいわば皮膚の乾燥を防いでいる天然の自分が分泌しているクリームです。これを利用しない手はない。結果としてこれらの皮脂はアカとなりますから、汚いもののように思われがちです。

見た目の汚く痒いから、ゴシゴシこすったり石鹸を使ってしまう。すると天然のクリームをすっかり落としてしまいますから、皮膚はますます乾燥し、アトピー皮膚炎は悪化します。普通の子供が何日も風呂に入らなくて痒くなるのと違うのですから、きれいにしすぎないように。アトピー皮膚炎の子供には、原則として石鹸類は使わないように。

一般にアトピー皮膚炎の子供は、アレルギーマーチ(アレルギー行進曲)といって、喘息・鼻炎・中耳炎・皮膚炎・・・と年を追ってさまざまなアレルギー症状が次から次へと出てきますから、親御さんも「この子は大丈夫かしら、何とか早くよくしてあげたい」と焦ります。時には子供たちが実際どのくらい苦しいのかを冷静に考える余裕をなくして、親の方が子供以上にパニックにおちいっていることもあります。

そういう方にもお風呂では使いたい石鹸をわざと使わない、親の方が我慢するという練習が必要です。じっと見守る根性を養ってください。また学校でアトピー皮膚炎ゆえに「いじめ」の対象になっているなら、担任の先生ときっちり話し合いましょう。

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「情熱利湿剤」が治療のポイント

医療の分野でほんとにできることがあるかどうか、まことに疑問です。一時的に痒みや症状をよくできるステロイド(副腎皮質ホルモン)軟膏の塗布は誰がみてもよく効果のある治療法に違いありません。昔のようにそのうち体に抵抗力ができて、アトピー状態から抜け出られる保証があれば、ステロイド剤でゴマかしゴマかしやっていくのも、確かに一つの手です。

しかし皆さんよく御存知の通り、あとで重大な副作用を生じます。ステロイド軟膏を長期にわたって使っても、ステロイド剤を長期に内服した時のような、全身的な困った副作用は出ませんが、皮膚自体がステロイド剤に反応し始めると、これは中止するしかなくなります。
ところが不思議なことに、ステロイドを中止したあとの激しいリバウンド症状を我慢してやり過ごすと、ステロイドによる皮膚炎ばかりでなく、もともとの皮膚炎もついでによくなることが少なからずあるのです。
こういう経験をしていると、何が何でもステロイド剤はいけないともいえないような感じで、まことにケースバイケース、一口では言えないということになります。

漢方薬では、カッカッと赤く熱いことを「熱」といい、それを冷ます薬が中心になります。
カサカサと乾いているからといって、それらを潤す薬、滋潤剤は必ずといっていいほど症状を悪化させます。

どちらかといえば乾かす薬、余分な水分を取り除く薬の方がよく効く。ということは表面的にはカサカサしていても、その下は水っぽいかもしれない。水分がうまく分布されていないらしい、ということが推量できます。一口でいうと熱を冷まし余計な水分を除く、漢方用語では「情熱利湿剤」が治療のポイントになる、というのが私の経験から言えることです。が、再発例も多く、まさに百家争鳴で、私ども医療従事者も困りきっている、というところが実情です。

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