握力低下はサルコペニアの注意信号
人口の増加に伴う高齢化の問題「健康長寿であるためには、どのような食生活や運動をするのが、良いのか?生涯を通して骨や関節はどのように変化していくのか?仕事と健康との関連性は、どのようなものなのか?」などは、先進国において大きな課題となっています。
サルコペニア(加齢に伴う筋肉減少症)は、加齢に伴う骨格筋の量や機能の喪失であり、フレイル(フレイリティ:虚弱)は、自律した生活が困難になる可能性がある健康状態のことです。
握力の変化が、長い人生の間にカラダに起きているかもしれない、サルコペニアやフレイル、糖尿病や心臓血管障害とも関わりが深いということが、わかってきました。
小学校の体力測定以来、きっと一度もしていない握力測定。
確実に、右手より左手の握力が、弱くなり、ペットボトルのキャップが、開けにくくなったり、ドアーを開ける時、押しても引いても扉が重いと感じます。
オーストリアのラクセンブーグル IIASA:International Institute for Applied Systems Analysis (国際応用システム分析研究所)の研究員グループは、「男女の握力を生涯(17~90才)に渡って、身長別に基準値を示した最初の調査である」と述べている。
研究は、German Institute for Economic Research (ドイツ経済研究所)の11,000名を超える人を対象に25,000以上の測定データーを基に行われた。
(International Institute for Applied Systems Analysis News 04 October 2016 )
IIASAのNadia Steiber氏は、「握力は、30代、40代でピークをむかえ、年齢と共に下がっていく。握力が、年齢・性別・身長によるグループの基準値を下回っていたら、医師にとって更なる健康チェックに対する指標となり得る。臨床診療において、握力の計測は、低コストで簡単な上、効果的なテストである」と追記している。(訳:tori3tori3)
握力と寿命の関係
英国 University of Southampton (サウサンプトン大学)の Medical Research Council Lifecourse Epidemiology Unit:英国医学研究会議ライフコース疫学ユニット(MRC LEU)の研究グループは、握力が生涯に渡って与える影響、寿命に対する変化にスポットを当ている。
以前の研究で、中年期や初老の時期に握力が弱くなった人は、自律性を失ったり平均寿命が短くなるというような問題を増長する可能性が高いことがわかっていた。しかし、正常な握力とみなされる年齢別のデーターは、ほとんど無かった。
研究は、12件の英国における調査報告書、4才から90才までの参加者49,964名における握力測定の情報を組み合わせ、一覧表を作成した。
現在、University Hospital Southampton Academic geriatric medicine の Richard Dodds氏は、当時「男性は、思春期の頃から女性より一般的に強いが、男性も女性も30代にピークをむかえる。若年層において通常の握力の範囲が、はっきりわかり、高齢者の握力が弱くなると思える以下のレベル情報を示せる」と言及している。
(MRC LEU による生涯の握力変化)「開業医も病院の医師達も、この握力測定をフレイル(frailty)と自律性の喪失を確認する為の情報として読み取ることができる」
「サルコペニア(加齢に伴う骨格筋量と機能の損失)は、集中的に研究されている分野で有り、臨床の現場でますます認識されている。握力は、サルコペニアやフレイルのような重要な症状の認識の手助けになる」と、University of Southampton 医学部老年医学 Avan Aihie Sayer教授は述べている。
「生涯に渡るライフサイクルにおいて、サルコペニアを含め、普通に起こりえる筋骨格疾患を解明する上で、重要な研究の1つである」と University of Southampton 医学部リウマチ学教授でMRC LEUのディレクターでもある Cyrus Cooper教授は言い添えている。(訳:tori3tori3)
(University of Southampton News 5 December 2014)
握力のカットポイントは何kg?
引き続き行われた最新の研究で、先進国並びに発展途上国における握力の差違について、4つのキーポイントを上げている。
(訳:tori3tori3)
- 握力の弱さはサルコペニアにおける重要な構成要素で有り、その後の身体障害や死亡率と関連している。
- 英国の調査研究を使用し、男女それぞれの握力のカットポイントが、27kgと16kgであることがわかった。
- 握力に関して地球規模の差違を調べた結果、先進国と途上国の間で、隔たりがあることがはっきりとわかった。
- 調査結果は、途上国において、地域特有の握力のカットポイントの必要性を示唆している。
(age and ageing 19 January 2016)
心臓血管疾患リスクの評価は血圧より握力を
カナダ McMaster University(マックマスター大学)の Population Health Research Institutes(人口健康研究所)と Hamilton Health Sciences (ハミルトン健康科学)グループは、「健康を推し量るうえで、血圧より握力の強さの方が勝っており、握力によって計れる筋力の減少は、早期の死亡・身体障害・疾患と常に関係がある」と、発表している。
研究は、17ヶ国における、35才~70才の成人約140,000人を対象に、4年に渡り、筋力計を使用して筋力を測定した。
結果は、握力が5kg減少するごとに、6人中1人は、何らかの原因により、死亡の危険性が増加し、心臓病や脳卒中、非心血管疾患の死亡リスクが17%上昇するのと同等であった。
「握力は、個々の死亡や心臓血管疾患のリスクを評価するのに、簡単に安価でテストすることができる」「医師や医療の専門家にとって、病気によって特に死亡リスクの高い、深刻な心不全や脳卒中のような患者を特定するために、握力を測定することができる」と、McMaster University医学部心臓病学Darryl Leong助教は、述べている。
「より多くの研究で、筋肉強化の努力が、死亡や心臓血管疾患の個々のリスクを軽減させるかどうかを、ハッキリさせることも必要とされている」と、追記している。(訳:tori3tori3)
(McMaster University News 13 May 2015)
日本人の握力ピークは?
日本では、2016年(平成28年)10月10日、スポーツ庁が発表した、平成27年度体力・運動能力調査結果の概要及び報告書の中で体力・運動能力の加齢に伴う傾向について下記のように述べています。
テスト項目により差異はあるが、全体的な傾向としては,男女ともに6歳から加齢に伴い体力水準は向上し、男子では青少年期(6~19歳)の17歳ごろピークに達するのに対して、女子では青少年期(6~19歳)の14歳ごろピークに達する。男女とも20歳以降は加齢に伴い体力水準が緩やかに低下する傾向を示している。なお握力(筋力)については、男子で35~39歳、女子では40~44歳でピークに達する。
(スポーツ庁 平成27年度体力・運動能力の加齢に伴う傾向 10 October 2016)
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要介護の期間を決める「平均寿命」「健康寿命」「健康格差」とは。(1)要介護の状態は男性約9年・女性約13年。
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