要介護状態になる原因の第1位は「フレイル」
健康への意識変化が求められています。
中高年の生活習慣において、メタボリックシンドロームに陥らないよう、過剰な栄養を控え、肥満などに気をつけることが、重要視されています。
しかし、高齢者では、反対に、低栄養にならないようにすることが、身体機能や認知機能を維持するために必要となります。後期高齢者(75歳以上)の要介護状態になる原因の第1位は「フレイル」と言われています。
「フレイル」はどういう状態か?
フレイルとは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す “frailty” の日本語訳として日本老年医学会が提唱した用語である。
フレイルは、要介護状態に至る前段階として位置づけられるが、身体的脆弱性のみならず精神心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する。
高齢者の特性を踏まえた保健事業のガイドライン(フレイル診療ガイド2018年版の要約)厚生労働省平成30年3月29日
フレイル」の可逆性と多面性
●可逆性
フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間的な時期である。
適切な介入をすれば、予備能力と残存能力を戻すことが出来る。
健康 ⇔ プレフレイル(前虚弱) ⇔ フレイル(虚弱) ⇔ 要介護(身体機能障害)
●多面性
「身体的(physical:フィジカル)フレイル」「精神的・認知的(mental:メンタル/cognitive:コグニティブ)フレイル」「社会的(social:ソーシャル)フレイル」の3要因が絡み合っている。
「フレイルには、多面性があり、最初のきっかけは、社会との繋がりを失うことであるのがわかった」と、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島教授は、述べています。
柏スタディ
平成24年度から千葉県柏市在住高齢者(自立/要支援)約2,000名を対象とした大規模高齢者コホート調査が行われています。健康状態、身体の構造と機能、活動、社会参加、心理及び認知機能等のデータを収集し、フレイルやその最大の原因であるサルコペニアの調査・研究が実施、発表されています。
高齢化の状況と予測
最速のスピードで、超高齢社会を迎えようとしている日本。団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる2025年には、65歳以上の老年(高齢者)人口は、3,677万人に達すると予測されています。これは、総人口の30%で、75歳以上の割合は総人口の17.7%です。
高齢者の現在の健康と福祉の状態を理解することが、大切だと考えられています。
平均寿命が、世界でもトップクラスであるからと手放しで喜んでいられない理由が見えてきます。
ー老年(高齢者)(65歳以上)人口の推移ー
●実績値- 2015年 3,347万人(総人口:1億2,709人/老年(高齢者)人口:26.6%で約3.7人に1人)
- 2016年 3,459万人(総人口:1億2,693人/老年(高齢者)人口:27.3%)
- 2017年 3,515万人(総人口:1億2,671人/老年(高齢者)人口:27.7%)
- 2020年 3,619万人(総人口:1億2,532人/老年(高齢者)人口:28.9%)
- 2025年 3,677万人(総人口:1億2,254人/老年(高齢者)人口:30.0%)
- 2030年 3,716万人(総人口:1億1,913人/老年(高齢者)人口:31.2%)
- 2035年 3,782万人(総人口:1億1,522人/老年(高齢者)人口:32.8%で約3人に1人)
- 2040年 3,920万人(総人口:1億1,092人/老年(高齢者)人口:35.3%)
- 2065年 3,381万人(総人口:8,808人/老年(高齢者)人口:38.4%で約2.6人に1人。後期高齢者(75歳以上):25.5%で約4人に1人)
「フレイル」への進行の大きな要因のオーラルフレイル
「サルコペニア」と「低栄養」
「サルコペニア」と「低栄養」が、深く関わっていると言われ、負のサイクルによって、ドミノ倒しが起きるようです。
●「身体的フレイル」の原因の1つである「サルコペニア」とは?
「身体的な障害や生活の質の低下、および死などの有害な転帰のリスクを伴うものであり、進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群である」と定義されています。
人は、30歳代から、筋肉量を、年間に1~2%失い、80歳頃にかけて、約30%を喪失します。筋肉量の減少は、個人差が大きく、これにより、歩行速度や握力低下に繋がります。
健康長寿のためには、老化の危険なサイン「フレイル」の「早期発見・早期気づき=自己認識(老いの兆候)」「早期対処:治療と予防=老年症候群予防(危険な老化を予防)」をすることが、とても重要なことになります。
●「身体的フレイル度」をチェック(現状況を把握し、サルコペニアや低栄養に気づく)
- 体重減少 (shrinking/weight loss:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少)
- 疲れやすい (exhaustion:何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる)
- 歩行速度の低下 (slowness)
- 握力の低下 (weakness:筋力低下)
- 身体活動量の低下(low activity)
ー上記5項目中の該当数でわかりますー
プレフレイル=(1~2項目該当者)
フレイル=3項目以上該当者
一般的には、Linda P. Fried 博士らによる身体的フレイルの評価方法が、使用されています。
超高齢化社会を健康長寿で生き抜くための、3つの重要なキーワード。ロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイル。「身体的フレイル」を引き起こす要因である「オーラルフレイル」
●「オーラルフレイル」とは?
オーラルフレイルは、日本独自の考え方であるとされています。
- 口腔機能の脆弱状態(フレイル)を意味する。
お口の中の衰えから、カラダにとって大切な「栄養」が、食事から十分に摂取できにくくなってきている時期です。「低栄養」が、気になります。 - 「身体的フレイル」やロコモティブシンドローム・サルコペニア(sarcopenia)になる前に、既にみられる症状であるとも考えられます。
- 早い気づきで、治療や予防によって、より健康な状態を取り戻せ、QOLを向上させられる可能性が増える時でもあります。
●「オーラルフレイル」の症状は?
- 滑舌の低下
- 食べこぼし
- わずかなむせ:お茶や汁物などでむせる
- 噛めない食品が増える:さきいかやたくあんぐらいの固さのものが噛めない。
- 口の乾燥
●「オーラルフレイル」の原因
- 歯の喪失
- 歯周病や齲蝕(虫歯)
- 口腔への関心(歯磨き・歯科受診など)の喪失
日本歯科医師会と厚生労働省は、1989年から「8020運動(80歳で20本以上の歯を保ち、何でも食べられることを目標は)」を展開してきています。現在では、達成者が40%を超えるほどになっています。
「オーラルフレイル」への関心・理解が広まり、対策が取られようになれば、食べる楽しみ(味覚・食感・食欲など)が増し、バランスの良い食事摂取や、人との繋がり(お口の中の状態が悪いと人付き合いを敬遠しがちに)など、社会的にも精神的にも、様々な効果が期待できます。
●「オーラルフレイル」予防マッサージ唾液の効果は、虫歯予防だけでなく、食べ物を飲み込んだり、粘膜の保護やスムーズな会話など、口腔機能維持に欠かせません。唾液腺マッサージでお口の中の乾燥を防御。
3つの大唾液腺マッサージ
- 耳下腺(じかせん)・・・両手の指をそろえて左右それぞれの耳の下にあて、耳たぶの前の窪みあたりを後ろから前に唾液が流れるように、回転させます。ゆっくりと5~10回。
- 顎下腺(がっかせん)・・・両手で左右それぞれの下顎の骨(首に近い部分)を軽く握り、やさしく顎骨の内側の押さえながら、オトガイ(顎の先)まで、両手を滑らせます。繰り返し5~10回。
- 舌下腺(ぜっかせん)・・・両手をそろえて、顎を親指と人差し指ではさみ、親指で顎先の窪んでいる部分をやさしく押さえます。ゆっくりと5~10回。
バスタイムや睡眠前などを利用して、リラックスして行うと唾液の出も良くなります。
- 耳下腺(じかせん)をゆっくりと5回マッサージ。
- 顎下腺(がっかせん)のマッサージを舌下腺(ぜっかせん)までやさしく行い、ゆっくりと5回押さえる。
3つの期待できる改善効果
- 免疫力の改善(歯の損失は、唾液の分泌が減少して、お口の中が乾燥しやすくなり、免疫力も低下します)
- むくみの改善(咀嚼力の低下は、首の周辺に集まっているリンパ節へのリンパ液の流れを悪くし、むくみがちに)
- 老人性表情の改善(口角が下がり、徐々に表情筋が衰え、マリオネットラインが現れ、老人性の表情になっていきます)
[参考]
超高齢化社会を健康長寿で生き抜くための、3つの重要なキーワード。ロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイル。
握力低下はサルコペニアの重要なマーカーで寿命にも関係。
柏市における大規模健康調査 オーラル・フレイル