1.迷ったら、そのままそこに立ち止まる。

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爽風と窓

仕事がら大勢の人に会います。有名無名に限らず、それぞれとても魅力的な方々ですが、京都でお会いした女僧さんのことは今でもとても印象に残っています。もう10年も前のことです。彼女は日本初の大僧正(お坊さんの最も高い位)になった女性で、当時でお幾つだったのでしょうか。多分70歳は超えていらしたと思います。静かに静かにお話をなさる背筋の伸びた方でした。季節は初夏。10畳ほどの和室に籐の椅子をおいて、日本茶、ほうじ茶、玄米茶の順にいただきながら、2時間ほど話をしました。開け放たれた窓、手入れの行き届いた廊下、古い匂いのする畳。線香の香りと風鈴が教える風の音をBGMに、庭の蛙が鳴きはじめた頃、名残惜しくおいとましたのを覚えています。

たくさんの言葉をいただきました。シンプルに「静」の姿勢で生きる潔さも彼女の立ち居振る舞いから学びました。黙ること...つまりは動かず沈黙すること...の大切さも、たった2時間の間ですが、身に沁みました。そして、最後に私はお願いをしました。「さまざまな迷いを抱えている多くの女性にアドバイスをください」彼女は優しい目で、私を数秒見つめて、「あなたは、ご自分が迷ったらどうしますか」と質問をしました。

答えられませんでした。本当にわからなかったのです。迷ったとき、私はいつも何をするだろう?イライラして、落ち込んで、ときには回りに八つ当たりをして、集中力を欠き、慌てる。自分なりにもがいて、悩んで、暴れて、時間をかけて答えを出す。そんなところでしょうか。なかなか答えにたどりつけない私を諭すように大僧正は言いました。

「迷ったら、そこに立ち止まればいいんです。その姿勢のまま、ジッと立ち止まる。風が吹いてきたらそのまま流されて、雨が降ってきたらそのまま濡れて、お天道さまが陽をくださったらそのまま浴びればいい。自分から動いてはいけません。ただ、立ち止まることです」...あれから、迷ったときにはいつでも、彼女の言葉を思い出しています。そして、その難しさも痛感しています。

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