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免疫とは

免疫とは、身体にとって非自己なる異物を排除しようとする機能のことです。異物の中には、細菌、カビ、ウイルス等のような外来微生物から、体内に生じたがん細胞や他人から移植された臓器まであります。これらの異物を免疫学では一口に抗原といっております。免疫には、体液性免疫と細胞性免疫があり、それぞれ特有な排除システムをもっています。その主役は血液中の白血球で、中でもリンパ球の働きが大勢を占めています。リンパ球には、B細胞とT細胞とがあり、T細胞はさらにいくつかの種類に分かれています。B細胞は、抗原が体内に侵入した際、T細胞の一種から指令を受けて抗体と称するタンパク質を生産放出し、それに抗原を結合させて排除します。このような働きを体液性免疫といいます。

一方、T細胞をはじめ、マクロファージ(大型食細胞)、NK細胞(ナシュラルキラー細胞)等のリンパ球は抗体を生産することなく、抗原を直接攻撃殺りくして排除します。しかも、むやみやたらに攻撃するのではなく、T細胞には役割分担の決まった細胞種があり、抗原を認識して指令を出すもの、攻撃のみを行うもの、攻撃をコントロールするものなどが連係プレーで排除を実行します。このような働きを細胞性免疫といいます。

免疫と栄養との関係

ところで、私たちはインフルエンザやO-157などの感染症の流行時以外ふだんは免疫にあまり気を配ることはありません。しかし、免疫力の低下や異常はさまざまな病気を引き起こしています。また、免疫力は高年齢とともに低下するので、超高齢化社会を迎えて深刻な問題となりつつあります。そこで、今回は免疫と栄養との関係をとりあげてみたいと思います。

まず栄養状態、とくにタンパク質の摂取と免疫・感染との関係については前記事「ストレスには牛乳とビタミンC」でも少しふれましたが、タンパク質・エネルギー欠乏症(Protein energy malnutrition. PEM)で栄養失調にかかった小児にみられる免疫不全症で、アフリカを中心に全世界で4億人が苦しんでいるといわれています。
体液性免疫では、抗体タンパク質であるガンマグロブリンがPEMでは著しく低下し、そのため小児の腸内の細菌類が増加し、栄養の吸収が阻害されて体重が減少します。また、食物アレルギーが増加し、はしかに対するワクチン効果が健康児に比べて著しく劣ることなどもわかっています。

細胞性免疫でも、PEM患者ではその働きが抑制されており、T細胞が減少するため、種々の感染症にかかりやすくなっています、T細胞は胸腺という器官によって成熟しますが、栄養が低下すると胸腺が萎縮し、その結果T細胞が減少するのです。結核検診に用いられるツベルクリン反応は細胞性免疫の現れですが、栄養低下で陰性となり、タンパク質を補給すると回復することが知られております。

以上のように、栄養状態とくにタンパク質の摂取不足が免疫システムに対して大きな影響を及ぼしていることは間違いありません。この事実を示す例として、W.H.O.によるB型肝炎ウイルス(HBV)保有者の国別発生率を世界的に調査した報告があります(表)。 これによると、国民のタンパク質の1日摂取量が少なくなるにしたがってHBV保有者数が増加し、とくにアジア新興国でその傾向が著しいことがわかります。

各国民のタンパク質摂取量とHBV保有者率(Nishiokaら)
国名(調査年)
HBV保有者率%
たん白質摂取量/日
パプアニューギニア(1971) 8.0 20.0
フィリピン(1969) 16.0 45.8
タイ(1972) 9.8 49.1
台湾(1971) 6.3 72.0
中国(1966) 4.5 58.2
日本(1976) 2.7 20.0
アメリカ(1966) 0.3~0.1 93.7
イギリス(1966) 88.6
フランス(1966) 98.2

日常の食生活や生活環境からたえず侵入する抗原に対して、上述の免疫機構が順調に作動するためには多量のタンパク質が消費されています。そのような理由から、我が国のタンパク質の栄養所要量を算定する際、1日の最低必要量のほかに感染や免疫に対する安全率が10%加算されます。

免疫機能と栄養素

タンパク質以外の他の栄養素と免疫機能との関係についてはまだ十分にわかっておりません。しかし、間接的ながら、栄養バランスの失われた食生活が免疫の低下や異常をもたらすといわれています。近年、食物アレルギーのような免疫の異常による疾患の増加がそれを物語っているのかもしれません。免疫力に関係の深い物質に活性酸素があります。これは私たちが呼吸する酸素から発生します。体に取り込まれた酸素は食物を酸化燃焼させてエネルギーにかえますが、その際細胞内で酸化力の強い活性酸素(スーパーオキサイド)が発生します。活性酸素自体は体内で有効に利用されています。 エネルギー代謝のみならず、免疫を担う白血球(顆粒球)やマクロファージが細菌を食べる際に活性酸素を発生させて殺すのです。それほど強い酸化力をもっているので、当然私たちの体にはその害を防ぐためのシステムも備わっています。

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スーパー・オキシド・ディスタムターゼ(SOD)

スーパー・オキシド・ディスタムターゼ(SOD)というのがそれで、過剰に発生した分をたちまち除去してしまいます。しかしながら、活性酸素の働きが強すぎたり、酸化防止機構が弱くなると、いろいろな障害が起こってきます。細胞の傷害によってがんの発生や老化を促進する原因になると考えられています。また、リンパ球が傷害を受けると、免疫システムも障害を受け、機能の低下や異常をもたらすことになります。したがって、活性酸素の害を防ぐためには、生体内の抗酸化作用を増強する必要があります。抗酸化物質として食品中に含まれる成分では、赤ワインやチョコレートに含まれるポリフェノール、お茶に含まれるカテキン、大豆に含まれるイソフラボンなどが挙げられます。

栄養素では、ビタミンA、C、Eはとくに活性酸素による酸化作用を防止するのに有効とされています。また、活性酸素そのものを直接排除する能力を有するSODやグルタチオンペルオキシダーゼには微量のミネラル成分が含まれており、とくに亜鉛、銅、セレン等がその活性を維持するために必要とされています。したがって、これらのミネラルを多く含む食品をとることは免疫機能を助ける効果があります。ちなみに亜鉛は水産物(かき)、セレンは、にんにく、にら、たまねぎ等に多く含まれています。

(参考)食エッセンス記事


注目のきのこ類

終わりに、最近とくに注目されている、免疫機能増強効果のあるといわれているきのこ類についてふれておきましょう。一般にきのこ類には免疫を活性化する成分が含まれており、既に免疫療法剤として使用されているものもあります。例えば、カワラタケから抽出したクレスチン、シイタケから抽出したレンチナンなどがあります。漢方薬として有名な霊芝はマンネンタケを用います。最近注目されているのが南米ブラジル産のアガリクス茸です。このきのこはマウスでの動物実験で抗腫瘍効果があることがわかっています。

その抗腫瘍性物質の本体はβ-d-グルカンと呼ばれる多糖体で、それによって細胞性免疫が強化されることによって、腫瘍細胞が攻撃されるためと考えられています。このような免疫機能を強化したり、あるいは正常化するような物質や食品成分の開発は今後ますます盛んになるものと思われます。

(1999年3月)
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