健康のため運動を
ここでいう運動とは、スポーツ選手を対象にしたものではなく、余暇にスポーツを楽しんで体を鍛えたり、健康づくりのために行う人のための運動のことです。
個別への栄養所要量を適用する場合は、生活活動強度ごとの性別、年齢階層別、身長別栄養所要量の別表を参照することになっています。エネルギー所要量は、個人の活動消費量にみ合った物ですから、活動の軽い場合は少なく食べればよいのです。しかし、食物摂取量の減少は他の栄養素の不足をもたらすこともあり、またエネルギー消費量の減少は体力の低下や疲れやすくなったりして、肥満や成人病の誘因にもなっています。そこで、体力および健康の両面から、日常の生活で、ある程度以上のエネルギー消費を心がけるよう勧告されています。
生活活動強度に応じたエネルギー消費量の目安は、(表1)に示すとおりです。また、(表2)は付加運動の具体例です。
(表1)生活活動と付加運動によるエネルギー消費量(目安)日常生活 活動強度 |
エネルギー消費量(kcal/日) |
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男 |
女 |
|
軽い |
200~300 | 100~200 |
中程度 |
100~200 | 100程度 |
やや重い |
運動を行うことが望ましい | |
重い |
日常生活活動と運動の種類 |
付加運動1時間当たりのエネルギー消費量 |
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男 | 女 | |||
体重60kg |
体重70kg |
体重50kg |
体重60kg |
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ゆっくりした歩行(買物、散歩) | 90 | 105 | 70 | 90 |
普通の歩行(通勤、買物) | 130 | 150 | 100 | 120 |
自転車(ふつうのはやさ) | 160 | 180 | 130 | 150 |
急ぎ足(通勤、買物) | 210 | 250 | 170 | 210 |
階段昇降 | 280 | 320 | 220 | 270 |
キャッチボール | 180 | 210 | 150 | 180 |
ゴルフ(平地) | 180 | 210 | 150 | 180 |
軽いダンス | 180 | 210 | 150 | 180 |
サイクリング(時速10km) | 200 | 240 | 170 | 200 |
ラジオ・テレビ体操 | 210 | 250 | 170 | 210 |
エアロビックダンス | 240 | 280 | 200 | 230 |
ハイキング(平地) | 180 | 210 | 150 | 180 |
ピンポン | 300 | 350 | 240 | 290 |
テニス | 360 | 420 | 290 | 350 |
スキー(滑降) | 360 | 420 | 290 | 350 |
バレーボール | 360 | 420 | 290 | 350 |
バトミントン | 360 | 420 | 290 | 350 |
水泳(平泳 流す) | 600 | 700 | 490 | 590 |
水泳(クロール) | 1,200 | 1,400 | 980 | 1,170 |
なわとび(60~70回/分) | 480 | 560 | 390 | 470 |
ジョギング(120m/分) | 360 | 420 | 290 | 350 |
ジョギング(160m/分) | 510 | 600 | 420 | 500 |
ランニング(200m/分) | 720 | 840 | 590 | 700 |
さらに、この目安を基に、健康づくりのための運動所要量が作成されました。健康維持のためには、一定水準の体力が必要と考えられるからです。体力と一口にいってもいろいろありますが、とくに全身持久力を一定水準以上に維持している人では、肥満症、高血圧症、高脂肪血症、虚血性心疾患等の罹患率が低いことが分かっています。一般に、全身持久力の評価には、「最大酸素摂取量」というものを採用しています。これはトレッドミルなどでこれ以上は無理という最大運動をした時の酸素の消費量のことです。
安全な運動とは
そこで、健康づくりに適した運動とは、最大酸素摂取量を維持または増加させることができ、しかも若者から年配者まで身心にとって安全なものでなければなりません。この点、有酸素運動が適しているといえます。有酸素運動とは、無酸素運動に対して使われる言葉で、運動中呼吸より空気(酸素)を取り込みながらエネルギーを発生させて行う運動です。例えば、100メートルの短距離ランニングでは、一流ランナーですと10秒前後で呼吸せずにいっきに走りますが、この間筋肉中のグリコーゲンをエネルギー源に利用するので、酸素はいらないのです。したがって、このような運動は無酸素運動です。これに対して、長距離ランニングでは、当然呼吸をします。この間は無酸素状態で分解して生成した酢酸や乳酸を、さらに酸素を用いて分解してエネルギー源にします。有酸素運動の方が無酸素運動よりずっと優れています。そればかりか、無酸素運動では、息をつめて気張るので、血圧を上げるような運動が多く、心臓の悪い人や年配者にはとうてい無理です。
運動所要量は、運動強度を最大酵素摂取量の50%とした場合の1週間あたりの合計運動時間で表し、その目安が目標心拍数で示されています(表3)。
この運動所要量を利用する場合、10分以上継続した運動を、1日の合計が20分以上、原則として毎日行うことが望ましいとされています。といいますのは、上述のように、筋肉のエネルギー源として使われるのは最初は糖質ですが、20分以上たつと脂肪も燃焼するので、体脂肪を減らして体重調整することもできるからです。
年代 |
20代 |
30代 |
40代 |
50代 |
60代 |
1週間の合計運動時間 | 180分 | 170分 | 160分 | 150分 | 140分 |
(目標心拍数 拍/分) | (130) | (125) | (120) | (115) | (110) |
個人に合った運動を
エネルギー所要量は、個人の行う付加運動のエネルギー消費量に合わせて取り入れればよいのです。スポーツ選手のトレーニング期においては、通常3,000~5,000kcal/日を必要とします。そこまではいかなくても、激しい運動を行う場合は糖質と脂質の補充が必要となります。
普通の場合、摂取エネルギーの20~25%を脂質によります(2,000kcalで44~56g)が、消費エネルギーが多い場合は25~30%(3,000kcalで83~100g)とします。運動することによって筋肉が肥大化したり、あるいは運動がストレッサーとしてはたらいているような場合は、タンパク質を多めにとる必要があります。それを怠ると、血中のタンパク質が筋肉の方にまわって低タンパク血症となったり、赤血球の破壊を起こしていわゆるスポーツ貧血となる場合があります。したがって、運動の激しさに応じて、余分に摂取するエネルギー量の10~15%をタンパク質でとるようにし、とくに良質のタンパク質のうち動物性タンパク質は50~60%を目安にするのがよいと思います。
(参考)ウエルエイジングNEWSコーナー記事
生活習慣病予防の新指標METs(メッツ)とEX(エクササイズ)
ビタミンが重要
運動による発汗にともなって汗中に排出されるミネラルを補給する必要があります。カルシウムや鉄は不足しがちなミネラルですから、運動中は十分とるよう心がける必要があります。カルシウムは筋肉の収縮に不可欠であり、不足すると、テタニー症状(筋肉のけいれん)を呈します。他方、適度の運動は骨に荷重がかかるため、カルシウムが取り込まれやすくなり、骨が丈夫になるという利点もあります。
ビタミンについては、運動をすると新陳代謝が高まるので、ビタミンB1、B2、C、ナイアシンなどの消費が多くなります。スポーツ選手の場合、これらのビタミンの摂取量は一般人の所要量のほぼ2倍以上が必要と言われています。また、腱靱帯をつくるコラーゲンを強化する意味で、日常ビタミンCを多く含んだ野菜や果物をとることも心がけることが大切です。ビタミンCは、また、有酸素運動中に体に取り込まれた酸素から生成される活性酸素を除去するはたらきもあります。
一般的注意として、多少なりとも疾患を持っている人は、医師の指導の下に行う必要があり、また健康人であっても、激しい運動を行う場合には、予め医学的検査を行って危険の生じる可能性の少ないことを確認してください。