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ひと昔前の栄養学の書物を見ていますと、酸性食品やアルカリ性食品といった言葉が出てきます。食品を酸とアルカリ性に二大別して、栄養改善の参考にしようとする考え方です。しかしながら、近年の学問の進歩によりそのような考え方はあまり顧みられなくなり、今日の栄養学の書物からはその姿がほとんど見られなくなりました。ところが、最近の健康ブームにのって、アルカリ性食品をうたった商品が結構出回っております。また、市販の食品成分表にも、食品の酸性度やアルカリ度の数値が載っているものをみかけます。そこで、今回は食品の酸性、アルカリ性とは何か、またその栄養学的意義について述べてみたいと思います。

酸、アルカリの基準は生体内で燃焼した結果

まず、食品の酸やアルカリ性の度合いをそのようにして決めるかと言うことです。梅づけのようなすっぱい味のするものは酸性食品と思われがちですが、それは見かけ上のことなのです。実は、食べた食品が生体内で燃焼した場合、結果的に酸性になるか、またはアルカリ性になるかによって決めるのです。栄養学では、カロリーという言葉が食品の燃焼によるエネルギー値を表すのと同じように、食品を燃焼して残った灰分について、酸またはアルカリ性の度合いを調べるのです。灰分中にリン、硫黄、塩素などの陰性イオンのミネラルが多ければ、それぞれリン酸、硫酸、塩酸などとして酸性に傾きます。これに対して、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの陽イオンのミネラルが多ければアルカリ性に傾きます。人体内でも、生理的に燃焼したあとに残ったミネラルが同様の働きをすると考えるわけです。

国立健康・栄養研究所の西崎弘太郎博士が発表した論文から主な食品についてみると、次表の示すとおりです。


この表から、酸性食品といわれるものには肉類、魚介類、穀類、卵黄等が入り、アルカリ性食品といわれるものには野菜類、海草類、きのこ類、豆類、いも類等が入ることがわかります。ただし、豆類には両者あり、海草類中乾ノリは酸性食品です。酒類でも日本酒やビールは酸性食品ですが、ワインはアルカリ性食品です。牛乳は中性に近いアルカリ性食品ですが、チーズにすると酸性食品となります。鶏卵中卵白はアルカリ性、卵黄は酸性食品です。一般に、穀類ではリン酸分が多いので酸性となり、野菜や果物ではカリウムが多いのでアルカリ性となります。したがって、食品の酸度やアルカリ度はミネラルの種類や量をある程度反映しているといえます。

酸、アルカリで体液が変わる?

しかしながら、これらの値をもって直ちに栄養学的意義を論ずるには問題があります。
誤った考え方の一つに、食品の酸やアルカリ性によって体液が変わるというのがあります。酸性食品を多食すると血液が酸性になるとか、血液は弱酸性だから、アルカリ性食品をとった方が健康に良いというたぐいのものです。われわれの体は成人で約60%の水分から成っていますが、水は体液として血液、細胞内液、細胞間液等に分布し、それぞれ特有のミネラル成分を含んでいます。しかもそれらの組織は常に一定に保たれており、食物中のミネラル組織をそのまま反映することはありません。

血液を例に取ってみますと、pHは7.35から7.45の範囲に常に保たれていますが、そこにはpH調節のための絶妙な生理機能が働いております。なぜならほんの少しでも上記の範囲を外れたとしますと、重篤な症状を呈し、生きることすら不可能になるからです。食物によって血液が酸やアルカリ性に傾くことは決してありません。
栄養学的にみて、両者の区別は余り重要とは思われません。しかし、現実問題としてアルカリ性食品=健康食品というイメージが今でも根強く残っております。確かに野菜や果物はアルカリ性食品であり、肉や魚は酸性食品です。アルカリ性食品がよいからといって、野菜サラダばかり食べ、肉料理を食べないとしたらどうなるでしょう。栄養不足に陥ることは目にみえています。

以前に栄養のバランスの話をしましたが、アルカリ性食品と酸性食品の摂取バランスが大切です。もちろん、栄養バランスと酸・アルカリ性バランスは考え方に大きな違いがあります。前者は栄養素を中心にしたバランスであり、後者は単にミネラルを中心にしたバランスです。牛乳は乳幼児にとってはほぼ完全栄養食ですが、中性に近い食品です。アルカリ食品だからといっても、ミネラルの中味が問題です。梅干しを例にとっても、ナトリウムイオンのとり過ぎは返って健康を損ねることになります。

食エッセンス記事

(2000年3月)
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