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遺伝子組み換え食品の特徴

アダムとイブが楽園を追放されてこのかた、その子孫は額に汗を流して畑を耕し、家畜を飼って食物を自給してきました。人類の長い歴史は、実に食糧の歴史といっても過言ではありません。今や食糧難にあえぐアフリカならずとも、食糧大国アメリカでさえ、いかにして安全かつ豊かな食糧を確保するかが、生きるための最大の関心事です。そんな20世紀末に、突如救世主として現れたのが遺伝子組み換え食品なのです。

そもそも、遺伝組み換え作物が登場したのはつい最近のことです。1973年に、大腸菌を使った遺伝子組み換え技術が成功し、そのあとすぐに植物の遺伝子組み換えが行われるようになりました。長い間人類が自然交配などの技術でのみしかできなかった品種改良作物を、わずか20年の間にいとも簡単に作れるようになったわけです。現在までに、アメリカやカナダで開発されて商品化されている遺伝子組み換え作物には、(1)除草剤に耐える、(2)害虫に対して抵抗性がある、(3)日持ち向上性があるなどの利点があるとされています。除草剤耐性遺伝子を導入した作物には、ダイズやナタネなどがあります。これらの作物は、広く用いられている除草剤の「グリホサート」を散布しても枯れることはなく、雑草はすぐ枯れてしまうので、農家にとっては手間がかからず、しかも従来種よりも格段に多い収穫量をあげることができます。

害虫抵抗性遺伝子を導入した作物には、トウモロコシやジャガイモなどがあります。これらの作物につくコガネムシ、テントウムシ、ガやチョウなどの幼虫などは、これらの作物を食べるとその毒性のために死んでしまうのです。これらの害虫の天敵ともいえるバチルス・チューリンゲンシス(BT菌ともいう)という細菌の一種から、毒性タンパク質をつくり出す遺伝子だけを取り出して、作物の細胞の中に導入してあるからなのです。つまり、化学合成殺虫剤を使わず、天然農薬による害虫駆除というわけです。

日持ち向上性作物の代表としては、トマトがあります。トマトは、通常収穫後果皮が柔らかくなって熟成が進み腐りやすくなります。そこで、特殊な遺伝子を導入することで、熟成を抑制することにより、日持ちを向上させることができます。畑で完熟させて収穫できるので、色や風味もよく、しかも腐りにくいのが特徴です。

安全性の確保

さて、これら遺伝子組み換え食品が商品としての安全性の確保はどのようにしてなされているのでしょうか。また、遺伝子組み換え食品を食べた場合、果たして健康への悪影響はないのでしょうか。この問題に関して、アメリカで1989年に、日本のメーカーが遺伝子を組み換えた大腸菌を利用して作製された「トリプトファン」というアミノ酸製品を食べた多くの人に、死者を含む健康被害が発生するという予期しない事故があり、安全性をよく確認しないままに市場に出回ったという苦い経験があります。この事件をきっかけに、日本でも遺伝子組み換え食品に対する安全性の評価体制が整い、科学技術庁や農水省の安全指針のほか、厚生労働省の「組み換えDNA技術応用食品、食品添加物の安全性評価指針」に基づいて、最終的に食品としての安全性が評価されることになっています。そして生産者自身も安全性を評価する責任をもたされています。

厚生労働省の安全性評価の考え方は、遺伝子組み換え食品に新たに導入された特性が人間や家畜などに対して無害であることが証明されれば、その特性導入前の食品と実質的に同等と考え、従来の食品と同様に扱ってよいということなのです。したがって、同省の指針では、導入遺伝子によって作物中に新たにつくられた物質についてだけ安全性をチェックすればよいとされています。

安全性の根拠

今日、商品化された遺伝子組み換え食品で、「安全」と判断された根拠はおよそ次のような事実によっています。まず、導入された遺伝子が新たに作り出すタンパク質や酵素の毒性に関するものです。BT菌とその産生する毒素タンパク質が人畜に無害であることは、大分以前より分かっていましたが、最近の研究によると、昆虫の身体の細胞には毒素の受容体が存在するも、哺乳類の細胞にはそれが存在しないため、毒素が全く作用できないことが明らかにされています。また、BTタンパク質や酵素タンパク質は、加熱調理する際に変性して不活性になると、あるいは食べる際に消化液で分解するので問題ないとされています。

次に、BTタンパク質がアレルゲンとして、人のアレルギーを引き起こす作用がないかということです。この点に関しては、厚生労働大臣の諮問機関である食品衛生調査会の調査報告書によりますと、殺虫毒素がアレルゲンとして誘発したという報告例はなく、またすでに知られているアレルゲンと化学構造が類似していないという理由で、とくに問題はないとしています。

抗生物質性遺伝子の影響

目的遺伝子とともに抗生物質性遺伝子が導入されます。これは組み換えが成功したかを判断するために、選択マーカー遺伝子として、カナマイシンやネオマイシンなどの抗生物質に耐性をもつ遺伝子がいっしょに導入されるためなのです。人がそのような遺伝子をもつ食品を毎日食べた場合、感染症にかかったとき抗生物質が効かない体質になりはしないかという恐れです。この問題に関しても、抗生物質耐性にかかわる酵素が加熱や消化液によって短時間に分解されてしまうことが確認されており、また遺伝子の発現機構が植物と微生物では大いに異なることから、作物中の抗生物質耐性遺伝子が正常な腸内細菌に移行する可能性はあり得ないと考えられております。

遺伝子組み換え作物は、1990年代に入り生産量を急激に増やしているといわれています。例えば、アメリカのダイズの作付け面積のうち遺伝子組み換えダイズの割合は、96年が2%、97年が14~18%、98年が40%と増加しています。しかも組み換えダイズと非組み換えダイズは、収穫、貯蔵、流通の際に混合され区別ができない状態になります。日本はダイズの98%を輸入しており、その大半はアメリカ産です。したがって、消費者は、すでに遺伝子組み換え作物を原料として作られた食品を知らないうちに食べているわけです。例えば、しょうゆ、豆腐、みそ、大豆油などがあります。今のところ表示の義務がないので、消費者の選択権もないまま、いや応なしに食べているわけです。

(1999年1月)

(編集より)本稿は1999年1月に執筆、掲載されました。
2001年4月より、遺伝子組換え食品の安全性審査および表示が義務付けられました。
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