ビタミンは潤滑剤
ビタミンは、ビタミン相互のバランスよりはむしろ他の栄養素とのバランスが大切です。何故かといいますと、ビタミンはそれ自身エネルギー源ではなく、エネルギー源となる栄養素の代謝や生理作用に対してきわめて重要なはたらきをしているからです。いわば、栄養素が生体内でスムーズに燃焼するための潤滑剤の役目を果たしているのです。したがって、栄養素の代謝・生理活性の度合いに応じた摂取量が要求されるわけです。
また、ビタミン同士に相互関係はなく、その生理機能はそれぞれ独立しています。そのため摂取量が不足すると、各ビタミンに固有な欠乏症状が起きます。今日の日本では、ビタミン欠乏症の発生はほとんどみられないといわれておりますが、高齢者の増加により潜在的なビタミン不足者が増加しております。また、誤った健康情報などから、ビタミン過多摂取の傾向もあるといわれております。健康維持に必要な適量摂取を守ることが栄養上最も大切なことなのです。
そこでまずビタミンを水溶性と脂溶性とのグループに分けて、主な生理作用、欠乏症についてまとめてみると、次表のようになります。
ビタミン名 |
生理作用 |
欠乏症 |
水溶性ビタミン | ||
ビタミンB1 | 糖質代謝 | 脚気、多発性神経炎 |
ビタミンB2 | エネルギー代謝 | 口角炎、口唇炎、生長阻害 |
ビタミンB6 | アミノ酸代謝 | 皮膚炎、貧血 |
ナイアシン | エネルギー代謝 | ペラグラ、皮膚炎 |
ビタミンC | 生体内抗酸化作用 | 壊血病、皮下出血 |
脂溶性ビタミン | ||
ビタミンA | 上皮形成、視覚作用 | 上皮角化、夜盲症 |
ビタミンD | カルシウム代謝 | クル病、骨軟化症 |
ビタミンE | 脂質酸化防止作用 | 生殖障害(動物) |
ビタミンK | 血液凝固作用 | 脳内出血(新生児) |
代謝作用のビタミンB群
まず水溶性ビタミンですが、これらにはビタミンB群とビタミンCがあります。ビタミンB群は、三大栄養素のエネルギー代謝に深く関わっているので、その活性が大きくなればなるほどその要求量も高まります。そこで、ビタミン所要量では、B1は0.40mg/1,000キロカロリー、B2は0.55mg/1,000キロカロリー、ナイアシンは6.6mg/1,000キロカロリーの各値を基準にして算出してあります。
例えば、20歳代の男性(2,550キロカロリー)および女性(2,000キロカロリー)では、B1は男性1.0mg、女性0.8mg;B2は男性1.4mg、女性1.1mg。ナイアシンは男性17mg、女性13mgなどとなっています。このようにビタミンB群に関しては、消費エネルギーに応じた摂取のバランスがあります。したがって、激しい運動をする場合、当然ビタミンB群の摂取量は消費カロリーに応じて増量する必要があります。
多くの生理作用をするビタミンC
ビタミンCは、抗壊血病作用にとどまらず、生体内で非常に多くの生理作用を有するビタミンです。しかし、ビタミンB群のようにエネルギー代謝にはあまり関係しません。成人のビタミンC所要量は1日50mgとされていますが、個人のライフステージや生活環境条件などによって変動幅があると考えられております。もし大量に摂取したとしても、体内にある一定量(100~200mg/日)以上は保持されずに尿中に直ちに排泄されてしまいます。ビタミンCの大事な生理作用として、コラーゲンの合成があります。コラーゲンは結合組織、骨、腱などを構成する線維性タンパク質で、皮膚の表皮にも存在します。
喫煙者の血液中のビタミンC濃度は、非喫煙者のそれに比べて有意に低いことが統計的に認められています。いわゆるヘビースモーカーでは、少なくとも非喫煙者の2倍量程度のビタミンCを摂取するにが望ましいとされています。一般に、加齢、老化に伴って血液中のビタミンC濃度が減少することが知られています。ビタミンCは、老人性白内障の予防効果のあることもわかっております。高齢者はとくにビタミンCが不足しないように食事への配慮が必要です。
ビタミンCは、その生体内抗酸化作用により、ハムやソーセージなどの食品添加物の亜硝酸ナトリウムから生成する強力な発癌性物質ニトロソアミンに対する生成抑制効果を示したり、癌そのものの発生予防効果のあることも知られております。また、ビタミンCの必要量は生活環境におけるいろいろなストレスのほか、多量のアルコール、薬物、異物の摂取によって影響を受けることが知られています。
したがって、ビタミンCの要求量は現代人にとってますます増加の必要傾向にあると思われます。大事なことは、毎日の摂取量(50~100mg)を食品から十分に補給するということであります。欠乏症は別として、安易にビタミン剤からとることは栄養的に好ましくありません。
ビタミンAはカロチンとレチノールから
脂溶性ビタミンには、ビタミンA、D、E、Kなどがあり、生理作用も欠乏症もそれぞれ独自性があります。
ビタミンAは、正式名をレチノールといい、主に動物性食品に含まれています。一方、緑黄色野菜に含まれるカロチンは体内に吸収されてからレチノールに変わりビタミンAとして利用されます。食品成分表には両者の値が重量単位で示されており、さらに両者を国際単位(IU)で表示した値の合計値をビタミンA効力として併記してあります。カロチンの吸収量は調理方法によって大きく異な ことがわかっております。
ニンジンを油炒めして食べた場合、煮た場合に比べて少なくとも2~3倍の吸収量の差があるといわれています。そこで、成人では所要量(2,000IU)の半分の1,000IU相当はレチノールから、残りの1,000IUはカロチンからとるように配慮するのが好ましいのです。
なお、成人では7,000μg以上のレチノール摂取は過剰症の発現という点で避けるべきであるとされています。これは脂溶性ビタミンに共通した問題であり、水溶性ビタミンと異なり余計にとった分は体内に蓄積されやすく、直ちに排泄されることがないためなのです。
カルシウム代謝を調節するビタミンD
ビタミンDは、カルシウムの腸管吸収を促進したり、体内におけるカルシウム代謝を調節する大事なビタミンです。高齢者に多い骨粗鬆症は欠乏症の一つです。元来、人間の表皮には、コレステロールから生成したビタミンDの前駆物質がかなり高濃度に存在しており、日光の紫外線に当たるとビタミンDに変換します。しかし、日照不足の人、紫外線をカットする化粧品を常用している人、あるいは高齢者などでは生体内であまりビタミンDが作られませんので、食事から補給する必要があります。
食品中のビタミンDは動物性のものと植物性(きのこ類)のものとがありますが、両者とも効力は全く同じです。成人の所要量は100IUとなっています。乳児では、クル病予防のため400IUとなっていますが、それ以上摂取すると過剰症を引き起こすおそれがあるといわれています。
魚油中に多いビタミンE
ビタミンEは、生体膜組織中に多く存在して食物からの脂質中の不飽和脂肪酸の過剰化反応を防止し、生体機能を正常に保つはたらきをしています。植物油や魚油中に多く含まれる多価不飽和脂肪酸の摂取量が多い時は、その酸化を防ぐためのビタミンEもバランスをとる必要があります。日本人はとくに魚類を多食し、1日平均約20gの多価不飽和脂肪酸をとるといわれていますので、上記バランスより計算して1日の必要量は8mgとなります。
ところでビタミンEの正式名はトコフェロールといって、α、β、γ、δの4種類がありますが、これらのうちαが最も効力が大きいので、ビタミンEの目標摂取量は成人男子が8mgα-トコフェロール当量、成人女子が7mgα-トコフェロール当量となっています。
食品中の主なビタミン量を次表に示しました。
(参考)食エッセンス記事