両刃の剣
酒は「百薬の長」といわれるように、適度なアルコールは健康にとってプラスの面があります。晩酌は、一日の疲れとストレスをいやして明日への鋭気を養ってくれます。反面、アルコールの飲み過ぎはマイナスの面があります。肝疾患やアルコール依存症などがそれです。またアルコールのみに頼っていると、食事がつい不規則になって、偏食になったり、栄養バランスを失ったりすることがあります。ふだん充分な食事をとっている上にアルコールを飲み過ぎると、逆にエネルギー過剰になって、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の引き金になることもあります。栄養学的にみれば、アルコールは「両刃の剣」とも言えそうです。
酒を飲むと、アルコールは一部は胃から吸収され、残りは小腸から吸収されます。吸収されたアルコールは肝臓でまず分解されて酢酸となり、酢酸はさらに体内でエネルギー源として利用されます。それ故、アルコールは1g当たり6.93kcal(FAO)のエネルギーがあります。これは、清酒1合が米飯茶碗1杯分に相当します。ただし、アルコールのエネルギーといっても、個々の栄養素のエネルギーとは違います。例えば、脳や赤血球の必要とするエネルギー源はブドウ糖のみです。
お酒に強い人、弱い人
ところで、お酒に強い人がいれば弱い人もいるのは何故でしょうか。とくにわれわれ日本人は欧米人に比べてアルコールに弱い人が多いといわれています。近年、遺伝子レベルでこれが解明されるようになりました。アルコールが分解される過程は二段階あります。まず肝臓のアルコール脱水素酵素が働いて、アルコールからアセトアルデヒドというものが生成します。次の第2段階でアルデヒド脱水素酵素が働いて、アセトアルデヒドから酢酸が生成するのです。
この2つの分解過程を経てアルコールは正常に代謝されるのです。したがって、どちらかの過程に欠陥があると完全に分解されません。アルコールに弱い人の場合、第2段階に働くアルデヒド脱水素酵素が生まれつき欠損しているか、あるいは正常人の半分くらいしか持っていないのです。そのため、アルコールを飲むと、体内にアセトアルデヒドが完全に分解されずに残って溜まっていきます。このアセトアルデヒドという物質は、実は悪酔や二日酔の原因となります。
アルコールの分解過程の第一段階に働く酵素であるアルコール脱水素酵素は大抵の人が持っていますが、その働きが阻害されるようなことがあると、病的なアルコール中毒に陥ることになります。
女性の注意点
最近、女性のアルコール依存症が急増しているといわれています。男性が10年以上も飲酒を続けて発症するのに対して、女性はわずか5年以内でも要治療者になるといわれています。また、酒を飲んだ量が少ないにもかかわらず、女性は男性より10年も早くアルコール性肝硬変になるともいわれています。その原因の一つに、女性ホルモンの影響があることが国立療養所久里浜病院の高木医師らによって報告されています。
それによると、肝臓中のアルコール脱水素酵素は女性ホルモンの一つのエストラジオールによってその活性が著しく阻害されることがわかりました。同医師らは、「女性が生理前期、排卵前期、あるいはピル服用中など女性ホルモン分泌の高い時期にお酒を飲むと、アルコール脱水素酵素の活性が阻害されてアルコールの分解がうまくいかず、肝臓などに障害を与える可能性がある」と忠告しています。
アルコール入りドリンク剤
市販のドリンク類は、食品と医薬品の二つに分かれます。食品の場合、清涼飲料水(炭酸飲料、果汁飲料、茶類飲料、その他)と乳酸菌飲料があります。医薬品の場合、通称ドリンク剤とかミニドリンク剤とか呼ばれています。両者の違いではっきりしているのは効能効果の表示です。ドリンク剤の方には、「肉体疲労時の栄養補給」などと効能書きがありますが、食品ドリンクの方には成分表示があるのみです。
ドリンク類には、それぞれ特有の成分が含まれていることがあります。とくにドリンク剤になると、独自の医薬品的な成分が含まれています。食品ドリンクでは、糖類が主体で、ビタミン(B群やCなどの水溶性のもの)を含むものもありますが、アルコールを含むものはありません。一方、ドリンク剤には、ビタミン、カフェイン、アルコールがほぼ共通成分として含まれるほか、漢方薬、天然物、合成品などが含まれています。
ドリンク剤の問題点として、アルコールとカフェインがあります。アルコールは通常1%以下ですが、中には10%に及ぶものもありますので、1本当たりのアルコール量は少ないが、1度に何本も飲むと摂取量は増えます。確かに、心身の疲労時にドリンク剤を飲むと、アルコールとカフェインの相乗効果で、疲労感やストレスが和らぎ、快適感がわいてきますが、それは一時しのぎであって、根本的な回復には休養と栄養が必要です。
ドリンク剤の栄養補給といっても、限られたビタミンと糖分のみで、バランスのとれた栄養とは程遠いものです。それにドリンク剤を飲み続けると、習慣性を生む恐れもあります。
一日の栄養は、あくまでもバランスのよい食事であり、ドリンク剤に頼ることは出来ません。
アルコール食品といいますと、アルコール飲料(酒類)に代表されますが、そのほかアルコールを多少とも含む食品やドリンク類もあります。アルコールを食品添加物の目的に使用した場合、成分表示が義務付けられています。酒類のアルコール度合いを表示しますと、(次表)に示すとおりです。