19.張元素(ちょうげんそ)—易水学派の創始者

張元素
張元素(ちょうげんそ)  12~13世紀
張元素

古方を応用して新方を作る薬物学の大著「本草綱目」

張元素、字(あざな)は潔古、金の易水(今の河北省易県)の人。生卒年は不詳。易水学派の創始者。8歳で童子試を受け、27歳で経義科の進士に合格しましたが、禁忌に触れて除名され、以後は仕官の道を捨て、医学に専心しました。ある日、大斧で自分の胸を切り開かれ、数冊の医学書をつめこまれる夢を見て、医術に開眼したといいます。

河間の劉完素は当時名医として有名でしたが、彼は張元素を馬鹿にしていました。ある時、劉完素は傷寒を患い、処方を誤って頭痛がひどく脈は早く打ち、吐き気がして食事も喉を通らなくなりました。弟子は見守るだけでなすすべもなく、張元素を呼んできました。ところが劉完素は顔をそむけたまま見向きもしません。

張「どうして私を見下すのです?」(せめて脈だけでも、と脈を診て)
「はじめに某薬を服用しましたな!」
劉「そのとおりじゃ」
張「たいへんな見立て違いでしたな」
劉はその言葉を聞くと即座に起きあがり「何と申す?」
張「某薬は性寒にして下降し、太陰を走るが故に陽亡び、汗出ず。いまの脈のぐあいでは某薬を服用されるべきでしょう」

劉完素は聞いてその通りだと思い、その医術に敬服し、これ以後、張元素の名は天下に広まった、といいます。

張元素の医学思想はこのエピソードにも現われているように、陽(火)を重視するもので、劉完素の「攻火」とは対照的であり、また環境や社会的条件によって病気は変遷するものだから、古方に拘泥することなく古方を応用して新方を作るべきだと主張したことにあります。こうした彼の学説を彼の生地の名をとり「易水学派」と称したのです。この学派からは李(り)東垣(とうえん)など日本の漢方医学にも大きな影響を与えた人物が排出するのです。

張元素には著作がたくさんありますが、「医学啓源」「臓腑標本薬式」が代表的な著作で、他に「珍珠曩薬性賦」があり、薬物の気味・陰陽・厚薄・昇降の微妙を解説し、李時珍は「霊枢、素問以後の医学者では彼が第一人者である」と賞賛しています。

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