116.ビワ(枇杷・枇杷葉・枇杷仁)—枇杷黄にして医者せわしく—

初夏の体調不良に

枇杷

懐かしい童謡に、「ゆりかごの歌をカナリヤが唄うよ、ねんねこ、ねんねこ、ねんねこよー」(北原白秋)がありますが、この歌の二番は「ゆりかごの上に、びわの実がゆれるよ、ねんねこねんねこねんねこよー」でした。昔の郊外か農村の広い庭、初夏、濃い蔭を落とす枇杷の木の枝にゆりかごをつるしたのでしょうか。ゆっくりした時間と風を思い起こす何ともいえない郷愁をそそる風景です。

一方、枇杷の木を庭に植えると家人に病気が出る、と縁起の悪い方の言い伝えもよく聞きます。葉が大きく厚く、暗く感じるからでしょうか。幹が堅く木刀を作るのに使われるので人を殺傷するからという説もあります。「枇杷黄にして医者せわしく・・・」と、ビワが熟する梅雨時の初夏には病人が増えるという言い伝えがありますが、これは現代にも通用します。温度差が日ごとに大きく、湿度が増え、冷たい飲料を急に飲みはじめ、クーラーも効きはじめるこの季節には体調を崩す方が多いのです。

江戸時代後半から明治時代の初めにかけて「枇杷葉湯」売りが、この季節、京、大坂、江戸にたくさん居ました。枇杷の葉を刻んで乾かしたものに、肉桂や呉茱萸などの、身体を温めるけれども同時に清涼感のある生薬をミックスした煎じ液を熱いままで、売り歩いたということです。暑いときに熱いものを飲む知恵を再認識しなければ。

枇杷の木は、実から連想すれば、桃、梅、杏など、いずれもこのシリーズに登場しているバラ科の漢方生薬の仲間だとわかります。中国大陸の南方が原産とされ、中国の古医書には葉の形が楽器の琵琶に似ているからビワというとあります。
日本へは9世紀頃渡来し、前記のように江戸時代には一般の庭にも植えられポピュラーなものになりました。薬用には主として葉を用い、バラ科の桃や杏が種子(仁)を使うのと異なりますが、アミグダリンなどの主成分は共通です。アミグダリンは青い梅を食べてはいけないといわれるように青酸化合物ですが、分解されてベンズアルデヒドとなり、これが先程の清涼感をもたらします。

漢方では、主として気管支炎や鼻炎、蓄膿症に使われる処方に配合されます。また、禅寺に伝わる難病を治すという民間療法は、枇杷の葉を患部に押し当てるというもので、難病に枇杷の「枇杷ブーム」が周期的にくるようです。