粘性の高いのり状の唾液で巣づくり
日本で春を告げるツバメは、スズメ目(全鳥類の6割を占める約5.000種をふくむ最大の目)のツバメで、地面すれすれに飛ぶ、人工建造物にのみ営巣する、巣は泥と植物片でつくる、など私たちに馴染み深い。これに対して、今回の燕窩(燕巣)をつくるツバメは、鳥類分類では約400種を含むアマツバメ目のアナツバメで、ツバメの名はあるが上記スズメ目のツバメとは系統が大分異なります。
アマツバメ目のツバメは、日本では普通のツバメよりやや遅れて渡来し、山岳部の崖岩や海岸の洞窟で集団繁殖します。渡りの途中では畑地や市街地の上空にも現れますが、晴天のときは普通のツバメのように低空を飛ぶことはありません。曇天や雨天の日には、林のこずえ近くまで降りてくるので人目につくようになり、雨ツバメの名があります。脚指の握力が強く爪も鋭いので岩壁などに垂直に張りつくことができますが、電線にとまったり地上に降りたりはできません。その多くは洞窟内に営巣するため、穴ツバメといいいます。
ツバメが泥と植物片で巣をつくるのに対して、雨ツバメ類は巣の重量を軽くして落下を防ぐため、泥を使わず羽毛などを唾液で固めて巣をつくります。とくに穴ツバメには、繁殖期に唾液腺が異常に発達し、粘性の高いのり状の唾液を多量に分泌して、ほとんどこれだけで巣をつくるものがあります。
この巣を乾燥すると白色半透明の寒天質となります。これが特に清代以降、珍重されるようになり、中国料理、燕窩=金糸燕の巣となりました。主成分は糖タンパク質で、食物成分としては、水分13.4%・タンパク質49.9%・脂肪0・糖質30.6%・灰分6.2%という変わった組成で、動物性食品とも植物性食品ともいい難いものです。
インド、インドネシア、マレー半島などの、外敵の近寄りにくい海岸の高い岩場や洞窟につくられるますが、乱獲のためほとんどの洞窟が廃墟と化してしまい、唯一マレーシアが天然洞窟の燕の巣を安定供給しているといいます。最近では「ハウスもの」もあるそうです。海辺に家を買い、人は住まずに擬似洞窟にして、穴ツバメをおびき寄せる。中を常に暗くし、スプリンクラーで水をまいて一定の湿度を保ち、燕の鳴き声をスピーカーで流すというから傑作ですね。
漢方では、気を益し陰を養うとして、虚弱体質や慢性の消耗性疾患に、薬膳スープとして用いられます。なお燕窩を「海燕の巣」ということが多いですが、ウミツバメ類は地中に穴を掘って産卵するのでこれは誤り。