精が尽きたときは山イモを。50才過ぎたら八味丸
附属薬草園の隣の雑木林で自然藷(ジネンジョ)を掘ったことがあります。雑木にからみついているツル、葉のついている時ならともかく秋深く葉の落ちたツルでも近所の少年は「あれだ」と的確に見つけます。
私などとても及ばない自然と一体となった視線です、眼力です。深く1メートル以上にもなった自然薯は折らぬように掘り出すのに半日も汗をかきました。形を似せて長ーいヤマイモをおみやげ屋に売ってますが、あれは畑をブルで深く掘りかえして作る栽培ものです。
さて村里で栽培して作る里イモに対して、山に自生しているから山イモですが、現代では、ほとんどが栽培もので、上述の長いもの、手掌形のもの、塊状のものといろいろです。薬草園では塊状のものを栽培しています。すってトロロイモとして食べれば、消化のわるい麦メシでももたれないのは麦トロとして皆さん御存知。その他正月にトロロイモを食べると一年病気しないとか、あのネバリで精がつくとか。「精根尽きる」といいますが、精が尽きたときは山イモを食べよと昔からいわれてます。
50年くらい前、メキシコ産の山イモから「ステロイドホルモン」が抽出されました。どうしようもない関節リウマチの痛みが一瞬にして解消する夢のクスリとして登場し、その後合成して広く使われるようになりました。作用もはっきりしていて、なくてはならぬ薬ですが副作用もまた一流なので、やたら使うクスリでないことは皆さん御承知でしょう。当然山芋にもステロイドと近似した成分が入っているわけで、身体のいろいろな働きを活発にします。副作用がないのが生薬まるごと服用する漢方のいいところ。
こうした働きは古人も昔から気づいており、ヤマイモをカットしてカチカチに干し上げたものを山薬としていろいろの処方に入れてます。いちばん有名なのが八味丸。八味腎気丸ともいって他の七種のクスリと組んで、腎虚(下半身の老化現像)に使われます。
下半身が若返れば夜間2回も3回も行くようになる夜間尿が減るし、上半身の白内障や老眼も若返り、遠くなった耳もよく聞こえるようになるというというわけで、50才過ぎたら八味丸とよくいわれます。現在のように、動物性の蛋白湿を豊富に食べられるようになると八味丸の「山薬」のありがたさは相対的に低下するのは止むを得ませんが、それでも、50才過ぎた方が八味丸を服用はじめると違うなー、と気づくはずです。