35.木イチゴ(覆盆子・御所苺)—補腎補肝の作用があり腎虚に—

乾燥してから煎じて服用したり、薬用酒にも

畑の周辺や土手で、この季節、鮮やかさの増す緑の中に深紅の野イチゴがちらちらと見え隠れする姿はなんともかわいい。生命の生長を目の当たりにしているようです。
余談ですが、私はイングマール・ベルイマンの往年の名作「野イチゴ」を思い出さずにはいられません。

さて一般の店先に並ぶイチゴが草、草本であるのに対して、野イチゴも草本みたいですが、低く地を匍う蔓状ながらも木本で、バラ科キイチゴ属Rubus(ルブス)というグループにまとめられる木イチゴなのです。野イチゴが梅、桃、杏、枇杷などと同じバラ科といわれてもピーンときませんが、草刈りをするときの手強さは野バラと同じなので、そっちのバラなら得心できます。ルブスとはもちろん"深紅"という意味です。

木イチゴには、御所苺(ゴショイチゴ)の他に、ナガバモミジイチゴ、エビガライチゴ、クマイチゴなどが山野に自生し、これらを品種改良したものが、ブラックベリー、ラズベリーなどです。

生薬名の覆盆子は、ゴショイチゴなどの木イチゴの未成熟果実につけた名称です。平安時代の清少納言『枕草子』に「見るにことなることなきものの文字に書きてことごとしきもの覆盆子(いちご)」とあって、なんということのないイチゴに「覆盆子」とはいかにも大袈裟と皮肉っています。
覆盆子とは、お盆を伏せたような実という意味で、諸説あるようですが、木イチゴの実は熟すと食用になる部分がすっぽりとれ、跡にすり鉢状のくぼみが残る、その様子がひっくり返した盆に似ている、という説がいちばん納得できます。

中国の古医書には「これを食べれば、腎虚がなおり小便の回数が減る。それで不要になった尿瓶(盆)を伏せて置いておく。だからこの木イチゴを覆盆子と云うのだ」とあります。このように覆盆子には、補腎補肝の作用があり腎虚に効くということで、最近の韓国テレビドラマの影響もあって、覆盆子ジュースのブームになっています。
この季節になるべくまだ未熟の赤くない果実をたくさん採取してよく乾燥してから煎じて服用したり、薬用酒にするのもよいでしょう。