梅毒の治療薬として頻用
サルトリイバラの話をする前に、山帰来:サンキライの説明から。中国では「土茯苓」と呼ばれ、日本ではケナシサルトリイバラと呼ばれる、ユリ科のツル性の落葉低木があります。これは中国に広く自生分布しますが、日本には自生しません。
この根茎が土茯苓といわれる生薬で、1492年のコロンブスの新大陸発見以降、またたく間に世界に蔓延した梅毒の治療薬として頻用されました。
江戸時代の医書に「梅毒の重症患者は山に捨てられる風習があったが、土茯苓を服用すると治癒し、山から帰って来たので"山帰来"とも名付ける」とあります。江戸時代の日本にも輸入されていたのです。
ところが、ヨーロッパにもたくさん輸出されて品薄となり、日本で代用薬として用いられたのが、今回のサルトリイバラです。
こちらは、日本全土、朝鮮、台湾、中国大陸と広く分布します。これもユリ科のツル性の、上記の土茯苓=山帰来とよく似た植物ですが、節があって折れ曲がる茎に、棘があるのが違いです。猿が通ろうにも茂ったトゲのあるツルに捕まってしまうので、猿捕茨です。それに対して輸入ものには棘がないから「ケナシ」をつけたサルトリイバラと名付けたのです。
この猿捕茨の根茎が日本の梅毒治療薬として定着したのです。ですから江戸時代の医書にたくさん書かれている土茯苓や山帰来が、輸入物なのか、国産のサルトリイバラの根茎=「ばっかつ」を指しているのかは判然としません。根茎の化学成分も両者はそっくりで、効果はやや劣るかもしれないが、充分代用薬になったのです。
このように解毒作用があり、化膿性皮膚炎や梅毒、あるいは当時から、梅毒治療に用いられた水銀剤の中毒の解毒に用いられました。例えば梅毒治療薬の「香川解毒剤」に配合され、慢性の帯下(おりもの)に使われる「八味帯下方」などにも配合されます。また若葉はお浸しとして食用になり、五月頃の大葉は関西方面では、あん餅を包む(柏餅)の葉に使われました。またお茶や煙草の葉の代用に使われたそうです。