49.桑(桑白皮・桑葉)—付加価値抜群の伝説の木—

「クワバラ、クワバラ」は桑の原

桑

クワは、中国、朝鮮半島を原産とする落葉高木。北半球温帯から亜熱帯にかけ、14種類あり、中国にはそのうち8種あるといわれますが、一般的には、薬草園の畑の周辺にあるようにヤマグワが自生しています。

ご承知のように、桑葉は久葉(クワ)とも自称し、久う(食う)葉、即ち蚕が食う葉です。

中国では3000年前からこの桑の葉で養蚕がされており、日本にも奈良朝以前に伝来し、日本書紀や万葉集で早くも歌われています。なにしろこの葉を食べた蚕から絹糸ができるのですから、付加価値は抜群で、昔から聖木と仰がれ、桑畑には雷が落ちないと言い伝えられるように、独特の霊力があると思われてきました。雷が落ちたり、恐い思いをすると、「クワバラ、クワバラ」と言いますが、それは桑の原のことです。

桑の枝葉は伸びるのが早いですから、養蚕業の方々は年に4回も5回も繭玉を出荷することができます。蚕の食べ盛りの幼虫の時に、小枝を切ってそのまま与えますから、桑畑をローテートして使ってゆくと、元に戻る時には枝葉がまた伸びているという仕掛けです。

根の皮は桑白皮

先年、所沢に残っている養蚕家を訪ね、見学させてもらいましたが、お腹いっぱい桑葉を食べて、まるまる太り食欲が落ちてくると糸を吐きサナギになる準備。隣の蚕とからまないように一片3cmくらいの枠に入って、そこで繭玉をつくります。一年中目の廻るような忙しさなのに絹の価格は下落。本格的に補助金を出さないと、中国の安価な絹には太刀打ちできるはずもなく、養蚕家にはもう後継者はいないということです。

養蚕に葉を使用する他に桑葉は、お茶として売られています。果実は桑椹(そうたい)といって食用や果実酒に。酒や醤油の醸造にも加えられます。木材は建築、家具、農具、楽器に。内皮の繊維は製紙業に。ちなみに、和紙の原料になる「こうぞ」もクワ科の木です。

漢方薬として、処方に組み込まれるのは根の皮で、これを桑白皮といいます。喘息のくすりなどに配合されます。おもしろいのは金創(刀創、外傷)に用いられる処方に組み入れられる桑白皮には、特に南東方向に伸びた根皮を使うという指定をした古医書があることで、現在でも、使われなくなった桑畑を買いとり、印をつけて、その南東に伸びた根だけを用いて処方を作っているという、古書に忠実な、非常に凝り性の漢方家たちがいます。