成熟種子を乾燥したものは解熱、解毒などに作用
薬草園に現在の小屋が建つ前、10年間にわたって借り住まいしていた旧家から坂をおりてくると、右側のかなりきつい斜面がMさんのお宅の畑。70歳くらいの仲のよいご夫婦がいつも手入れしていて、私どもは通りがけにいろんな立ち話をしたものです。
帰りに持っていきなと、畑の作物をよく道路わきに置いといてくれました。畑作業が終わって軽トラックで上がっていくと、ちゃんと目印がしてあって、大根やキャベツ、白菜など頂いたものです。宝物のようだな。そういえば、今薬草園にある苺のご先祖はこのMさんから頂いたものです。
このMさんの得意技のひとつが牛蒡でした。長さ70cmくらいの太い、ゆたかな牛蒡です。その収穫は斜面を利用したもので、長芋の掘り方と同じ。さくっさくっと深く掘っていくと、牛蒡の根全体が横から現れてきますから、あとはその溝に入って、手で外してゆくだけです。この牛蒡だけはあんまり見事で、もらってはわるい、毎冬この季節正月用に買ったものです。
牛蒡は、食品としてキンピラが一番有名。このキンピラは、金平と書き、江戸時代初期につくられた浄瑠璃の主人公で、なんと坂田金時の子供で、その名も怪力無双の坂田金平。牛蒡を食べると精がつくから、金平牛蒡と呼ばれたそうです。
ゴボウはキク科の越年草でユーラシア大陸に広く分布し、日本へは中国から薬用として入ってきたといわれています。よく知られているように根を食べるのは日本だけで、ヨーロッパでは葉をサラダにするそうです。根は、センイのよさが見なおされている昨今では、もうこれ自体食べる薬みたいなものです。
漢方薬としては、種子の牛蒡子(悪実)を使います。悪実(アクジツ)とはすごい名前ですが、トゲトゲのついた格好の悪い実からきたらしく、ちなみに牛蒡の花言葉は「私にさわらないで」だそうです。この成熟種子を乾燥したものは解熱、解毒などに作用があり、風邪くすりや皮膚科のくすりなど多くの漢方処方にはいっています。
なお、ヤマゴボウ(商陸)という生薬がありますが、これは、牛蒡とは別のものです。