69.沢ガニ(津蟹・しんかい・藻くず蟹)—黒焼きにして化膿症や外傷に—

華岡青洲がよく用いた「津蟹」

蟹といえば古来美味の代表。中国の古典に「一手に蟹螯を持ち、一手に酒杯を持ち、酒池の中に拍遊せば、すなわち一生を了とするに足る。」とあるそうですが、確かに。今でもカニを食べ始めるとおしゃべりが止むものね。

食用になるカニには、伊豆で有名なタカアシガニ(高脚蟹・世界最大の甲殻類)、ズワイガニ(松葉蟹)、毛ガニ、ワタリガニ(上海蟹)、モクズガニ、沢ガニなどがあります。タラバガニ(鱈場蟹)、ハナサキガニなどは、カニとは言ってもヤドカリの仲間であることはご存じのとおり。上記のカニ類のなかで、淡水の河川でもよくみられるのがモクズガニや沢ガニ。

今回のモクズガニは、甲殻類・蟹科・十脚目。各地で食用にされ、ズガニ、カワガニなどと呼ばれています。甲羅の巾が六センチほどの中型のカニで、ハサミの基部に長い軟毛が密生しているのが、藻屑をつけているように見えるからモクズガニ。川の中流と海水の河口を往復し、海水域で繁殖しますが、冬季に川下りして繁殖する群と、川で越冬してから春夏に河口で繁殖する群とがあるため、結局一年中、川で見ることができます。

さて漢方薬としては中国では果実を八月札(はちがつさつ)といい種子を薬として用いることもあるようですが、一般には、木通として蔓そのものをカットして使います。
蔓を切って片方から吹くと向こうの断端へ空気が通るので「木通」という、とあります。つまり気も土も水も通りやすくするというわけです。

同じ蔓性のオオツヅラフジなどと同様、利尿作用が強く、膀胱炎などに使われる方剤に入ります。熱さましの作用としては皮膚科のくすりに、婦人科的には生理不順に、また催乳作用もあります。民間的には、利尿を期待してキササゲと一緒に煎じて服用することもあります。