蓮はもっとも聖なる植物
蓮は古代インドでは、ヒンドゥー教でも仏教でも、もっとも聖なる植物とされました。多くの仏さまが蓮の花(蓮華)の台座に立ち、手に蓮の花を持っているのは御存知の通り。
古代インドの神話では「原初に存在したのは水だけであった。その水の中からハスの葉が浮かび上がり、太陽のように金色に光輝く千の花弁をもつ花を咲かした。この花(華)は宇宙の扉、開いた口、または子宮である。ハスは創造的根源から生まれた最初の創造物である」と。
濁った水の中(現世)から、世にも美しい花を咲かせる(澄んだ水ではハスは育たない)ことや、ハスの花が日が高くなってから開花し、夕方にはしぼんでしまうことなど、太陽や創造と結びつき、聖なる植物となったのでしょう。
「医心方」を著わした丹波康頼の子孫の家系の錦水家では、冬至の日に、「ン」の字が二つ重なる材料を煮て一皿に盛り合わせたものを、古代の医薬神の神農にお供えするという習慣があります。それはニンジン、レンコン、インゲン、キンカン、ギンナン、ナンキン(カボチャ)、カンテンの七種。「運」がたくさんあることによるものでしょう。なかでもレンコンは特に由緒正しいお芽出たい食品です。
精神を落ち着かせ、下半身の力をつける
インド出身で多年草の水草、スイレン科のハス。中国や東南アジア、西アジア、オーストラリアで自生、栽培されてます。日本にも2000年前には伝わり、ハチスと呼ばれていました。花が落ちて実がなるところ、花托(かたく)が、ちょうど蜂の巣のように穴があき、外観がそっくりなので蜂巣(ハチス)と呼ばれ、それがハスに転じたといわれています。
食品になる蓮根は泥土のなかを横走している地下茎。そのレンコンのくびれた節の所を藕節(ぐうせつ)。生薬として、または炭化して止血に用い、生汁を咳止めに使う。レンコンをすって胸に湿布したことがありませんか。荷葉(かよう)はハスの葉で、解暑といって、暑気あたりや熱病後にいつまでも身熱がつづき身体がだるいときに用います。
この葉にモチ米をくるみ蒸したものが蓮飯。煮汁で米をたいたものが蓮葉粥。蓮子は先述の蜂の巣のような花托の穴につまっている堅い実、石のように重いので石蓮子ともいう。この実の堅い殻を除いた中にある大型の種子のことを蓮肉。蓮子粥として食べた方も多いでしょう。薬効としては、安神、補腎、固渋といって、精神を落ち着かせ、下半身の力をつけて、下痢、頻尿、帯下などを止める働きがあります。