「福神漬け」の素材の一つ
熱帯アジア・アフリカ原産のマメ科の刀豆は、中国に伝来したのは比較的新しく、日本には江戸時代初期に伝来し栽培されています。蔓(つる)状の一年草で、葉は長い柄を持ち、夏に淡紅紫色~白色の花をつけ,幅5センチ、長さ30センチにもなる大きな扁平な莢状の豆果をつけます。一つのサヤの中に6~16個くらいの白~桃色の豆が入っています。
16世紀に書かれた『本草綱目』には、「従来の本草書には記載がないが、最近の書にすこし載っている。莢が斜めに実っている様子が、人が帯刀している様に似ている。莢の長さは一尺にも達し、皂莢(さいかち)に似ている。豆の大きさは親指の頭ほどで淡紅色。猪肉・鶏肉と煮て美味」などとあります。同じマメ科のサイカチは高喬木で、だらんとぶら下がった皂莢を見上げたことはあるでしょう。私は実っている刀豆を小平の都立薬用植物園で見たことがありますが、それは皂莢ほど大きくはありませんでした。
このように、莢の形が刀や剣、鉈(なた)などに似ていることから、刀豆、鉈豆、或いは帯刀(たてわき)、夾剣豆という別名もあります。英語でもズバリ SWORD BEAN (刀の豆)。煙草を吸う煙管(キセル)の中には、ナタマメの形に似た「ナタマメ煙管」と呼ぶものがあるそうです。食用で有名なのは、豆よりも若い莢。スライスされたものが「福神漬け」に入っていますよ。
江戸時代の『和漢三才図会』には「煮て食べても美味くない。糟糠に漬けて香の物する」とあります。こんど福神漬けを食べるとき注意してください。長さ2センチほどの細長い中空のスライスがナタマメです。
お豆の方は、食用よりも薬用が主ですが、食べるときは、何度もアク抜きをしてから料理します。赤穂浪士が討ち入りの前にこのナタマメの味噌漬を食べて滋養をつけたのは、花が絶えることなく蔓が伸び伸びしている様から、旅立ちや出征の無事帰還の縁起物とされていたからでしょう。主として薬用に使われるマメの生薬名は「白刀豆」・「刀豆」。
歯槽膿漏・鼻炎・蓄膿症などの化膿止め、鎮咳薬また病後の栄養剤に乾燥したマメを煎じて服用します。健康食品として最近では「ナタマメ茶」が注目されています。豆を収穫した後の莢や蔓、根などを煎じます。