67.ザクロ(石榴・石榴皮)—果皮を乾燥させ下痢止めに—

クエン酸の力で金属の鏡がピカピカ

ザクロといっても若い人たちは知らないかもしれません。フルーツ店やスーパーで初秋によく探せば今でも手に入ります。赤味がかった茶褐色の厚い皮がはじけて、中に赤いルビーのような珠玉がつまっているといえば、あれかと思いつくでしょうか。私が育った家の庭にはザクロの木があって毎秋、10コくらいの実をつけていました。食べもののない頃でしたから、珠玉をはずして食べ、その中の小さな種をぺっぺっと吐き出したものです。甘さはあるにはあるが何といっても酸っぱいので子供たちが好んで食べるフルーツではありませんでした。

このザクロの実の味は、人の肉の味とよく似ているといわれます。王舎城の夜叉神=鬼子母神は千人とも万人ともいわれる子持ちでしたが、人の子を奪って食べるという鬼女でした。これを知った釈迦は、彼女を戒めようとして、彼女の最愛の娘を隠してしまい、子を失った親の悲しみを味わわせて諭したのです。そのうえで、どうしても子供が食べたくなったらかわりにこれを食べなさいとザクロを与えた、というおはなしが仏教の経典にあります。鬼子母神が懐に子供を、手にザクロを持っている由来で、仏教ではザクロのことを「吉祥果」とおめでたい呼び方をします。

ザクロは、2000年前に中国の西方、ペルシャ北方の安石国からシルクロードを伝わり入ってきた外来果実で、実が瘤(こぶ)に似ているから安石瘤、又は単に石瘤。ペルシャから西方ヨーロッパへも早くから伝わり、さかんに栽培されました。西の終着点のスペインの町グラナダのグラナダはザクロの意味です。

ザクロは石榴の日本読みといわれます。日本へは大分後、平安時代に薬用に持ち込まれたといわれます。当時の貴族が使った銅鏡はすぐ曇ってしまうので、石榴の実を袋に入れ、キュッキュッと磨くとクエン酸などの力で金属の鏡がピカピカになったといいます。ヨーロッパの古医書では、ザクロは根の煮汁は扁平な虫を駆出するとあります。サナダ虫の特効薬というわけです。漢方の世界でも、ザクロの東の方向に伸びた根の皮は回虫やサナダ虫を治すとあります。

漢方薬としては果皮を乾燥してくだいたものを虫下し、下痢止めとして用います。また根皮も上述のように使います。