漢方ではシャックリ止めの柿蔕
私が育った東京の家の庭に一本の大きな渋柿がありました。渋柿とはいっても晩秋になりすっかり熟してくると、モズがつっついたりしています。敗戦直後、まだ甘いものが手に入りにくい頃、おやつを欲しがる幼い私に母親がごわごわの柿を食べさせたといいます。私がひとこと「アーマイ」といったときの感激が忘れられないといいます。食べさせるものがないと思っていたから「神の助け」と涙が出たといいます。
この話は私がもう少し大きくなって何か我が儘を言うといつも持ち出されるエピソードで、「物がないなかでおまえを大きくしてやったのだからゼイタクいうな」。物不足を知らない今の母親たちの子供のしつけの難しいのはよくわかります。
さて柿ですが、原産は中国揚子江流域といわれ、日本にも大分古く伝わってきたようですが、食用として栽培されたのは奈良時代以降、甘柿栽培がされたのも日本に於いてです。欧米にも伝わりましたが、それはつい200年くらい前の比較的新しいことです。
「柿が赤くなれば医者が青くなる」とは秋の天候のよい時期には病気がない、という意味だと思いますが、柿にはいろいろの薬効があるという意味でもあるでしょう。
漢方の世界でいちばん知られているのは、シャックリ止めの柿蔕。柿の実のヘタです。これを煎じて飲むと、シャックリや吐き気が止まります。柿漆(ししつ)、これは渋柿のことで、以前にはこの渋を和紙でつくったウチワや傘などに塗ったもの。現在では日本酒の清澄剤に使われます。主成分はシプオールというタンニンで高血圧や脳卒中後遺症などに使われます。
柿霜、これは柿餅(干し柿)の表面の白い粉のこと。これはマンニトールやブドウ糖などの糖類で肺を潤し咳を止めます。柿餅は、ご飯が炊きあがる前にカマの中に入れ、充分むらせてからとり出すと、ベトーッとなっていますからこれをスプーンで小児に与えます。下痢を止めたり胃腸を丈夫にします。柿葉はこれは葉茶としても有名ですね。
やはり降圧効果があるなどといわれています。まさに、柿の木が一本あれば(渋柿でもよい)医者もまっ青です。
最近は、さまざまなお洒落な果物に押されて、日本中にあるのは放置されているこの多い柿ですが、利用したいものです。