毒消し作用は有名
中国南部原産のおなじみの紫蘇。古くから日本でも栽培され古くはイヌエとかノラエと呼ばれ、初めは薬用に、その後、同じく紫蘇科の荏(エゴマ)からとれる油よりも灯油に適しているので室町時代までは種子を灯油を採る為に栽培されました。その後灯油には菜種油が使われるようになり、紫蘇はもっぱら食用に栽培されるようになりました。(荏原という地名は、その昔灯油用に荏が栽培されていた地域の名残ということです)
紫蘇には赤紫蘇、青紫蘇の二つ通りありますが、赤紫蘇といってもやや暗い紫色で、アントシアンという色素。これは酸や空気中の酸素にふれると鮮やかな赤になりますから、よく揉んでから、梅と一緒に漬け込めば梅の酸により赤くなり、あの梅干しの鮮やかな色になります。
青紫蘇は、青くて紫色の蘇というのはへんな表現で、本来青紫蘇と呼ぶべきです。(もっともこの青は緑色のことでブルーではありません。緑の信号を青信号という表現と同じです。)この青紫蘇の方はもっぱら食用に、刺身の下敷きに使われたり、テンプラに使われます。刺身の上に配されるのは花穂で、バラバラとはずして刺身とともに食べます。生魚の臭み抜きと、毒消しの作用のあることはおなじみです。
気を通す芳香健胃剤
蘇という字は、魚と穀物を表す禾が並んでいて、関係のないものが並んで、スキ間のあること。葉がスキスキについてる草という意味で、そこから、喉のつまりをスキ間をつくって生き返らせることを蘇生というように使われます。そういうスキ間のあるノビノビと気を巡らすというのが漢方薬としての紫蘇の働きです。一口で言えば芳香健胃剤。
薬用に使われるのは赤紫蘇の方の葉と種子。葉と茎の先端を一緒に乾かして刻んで使います。気を通す芳香健胃剤として食欲増進、毒消しに。また風邪くすりとして他の生薬に配合して使われるときは発汗作用。種子の方は蘇子として喘息など咳の多い症状に使われます。
朝鮮出兵の時、加藤清正は部下の士気の低下を、この紫蘇の入った漢方薬「香蘇散」でなおしたといいます。こういう使い方は「気剤」といい、現代的な抗ウツ剤のない昔は芳香のある生薬で、ウツウツとした気を巡らせていたのです。