肉、魚料理に使われるハーブ
(当院の)附属薬草園で元気に育ち、何も手をかけなくても落ちた種からあちこちと発芽する茴香が今回のお話。これは地中海原産で中国には大分後になってシルクロードを経て伝えられたらしく、漢方薬としてはしばしば用いられる生薬ではありません。現在では世界各地に野生又は栽培されて広く使われている、代表的なハーブのひとつです。
ギリシャ本草というヨーロッパでは最古に属する薬物書では、茴香はMARATHRON。かの有名なマラソンと記されています。戦勝報告の為にマラソンから首都アテネまで42.195Kmをかけぬけた勇者にちなんでマラソンレースが行われているのは御存知の通りですが、そのマラソン付近には、この茴香がびっしり咲き乱れていたということで、マラソンと呼ばれたのでした。
中国名の茴香は回香。腐りかけた魚などにこの茴香をまぶしておくと香りが回復して食べられるようになるというところから回香。茴香です。英語ではフェンネル、種をよく使いますからスーパーのスパイスコーナーではフェンネルシードとしておなじみ。春先の緑あざやかなふんわりとした柔らかい葉は、もぐとプーンとセリ科特有の芳香があり、魚・肉料理のそえものに、スープの香りづけにと使えます。ロシアではウォッカの肴としてそのまま食べるとか。
「安中散」が有名
夏になると黄色い小さい花を多数枝先に複散状に咲かせます。挽夏~初秋には小さいな米粒大の果実をつけますので、やや青味が残ってるうちに茎ごと切りしばらく乾かしておきます。
茶褐色になったところで揉んだり叩いたりすれば、バラバラとたくさん収穫することができます。これがフェネルシード。前述のように肉や魚の煮込み料理に、カレーなどの原料に欠かせないものです。カレー専門店のレジの所にはこの茴香がよく置いてあり、帰りに口に含むと特有の甘みでヒリヒリした口の辛みがスーッと消えます。
漢方的には、芳香健胃剤。特に消化器系を暖める作用がつよく胃腸の働きを活発にします。タケダの漢方胃腸薬として有名な安中散という処方の中に配合されています。特に腸の動きをよくしてガスを出しお腹のはりをとる駆風作用にすぐれています。
ギリシャ時代にはシードばかりではなく、葉や根もしぼったり、煎じたりして、目薬やヘビやイヌの咬傷にも使われていました。