99.トチュウ(杜仲・杜仲茶)—下半身の老化、衰えに有効—

久服すれば「老に耐え」る

杜仲は中国中南部にまれに自生している高さ15メートル、幹の直径40センチにもなる落葉高木で、植物学的には「トチュウ科」として一属一種の特別な分類がされています。
挿し木で殖えるので、中国では貴重な「経済樹木」として盛んに栽培されています。日本でも古代には自生していたらしく、古代の地層から果実や幹の遺物が出土したようですが、今では自生種はなく植物園などにあるのは大正時代に中国から輸入されたものの子孫です。日本では「経済性がない」ため、生薬を採取することはなく全部輸入に頼っています。

生薬として使うのは樹皮。樹皮を使う生薬は「厚朴」とか「黄柏・キハダ」とかありますが、厚朴やキハダは皮をむくために樹木を切り倒してしまうのに対して、杜仲では部分的に丁寧にはぎ取り、養生してまた樹皮が再生するのを待つそうです。私が見たこの樹皮の標本は幅20センチくらいのもので、横に一センチ間隔でカットしてありましたが、持ち上げると全部くっついて、ちょうど簾(スダレ)のようにダラーンとぶら下がります。細い無数の白糸でカットした部分もつながってしまうのです。誠に自然の不思議、類例のない美しい姿でこれは何かに効くぞ!と古人が思ったのも無理はありません。この非常に珍しい姿になるのは、杜仲の樹皮にゴムの木と同じ成分がたくさん含まれているからです。

化学的にはイソプレン長鎖状重合体のグッタペルカがこの糸の正体とされていますが、このゴムは歯科で治療した穴に詰める材料に使われます。生薬の杜仲を煎じたときこのゴム成分に薬効があるかどうかは不詳のようです。

漢方的には古書に「精気を益し、筋骨を堅くし、志を強くし、腰膝痛・陰下の湿・小便余瀝を除き、久しく服すれば身を軽くし、老に耐える」とあるように、総じて下半身の老化、衰えに有効です。ですから「萎証方」という下半身が萎える症状に使う有名な方剤に配合されていますし、皆さんご存知の民間薬「養命酒」にも配合されています。

「杜仲茶」は同じ目的で杜仲の樹皮でなく大量に使える「葉」を使ったお茶です。この葉も折ると糸を引きます。
久服すれば「老に耐え」ますよ。