52.ケシ(罌粟殻・芥子・ポピーシード)—プツプツの食感がよい—

「カラシ」と「ケシ」

七味唐辛子の七味は各地で異なりますが、代表的には、唐辛子・麻の実・山椒・胡麻・陳皮・海苔・芥子の七味。
「芥子」は紹介しているのですが、それは「カラシ」の芥子。アブラナ科のカラシナ、つまりお馴染みのスパイスの辛子、マスタードのことでした。今回の「芥子」は「ケシ」と読む「ケシ粒」のように小さい、という時のケシです。実は私も混同していました。
植物学者の牧野富太郎によれば、種子が似ているため、ともに「芥子」と表記するようになり、混乱するようになったということです。

ケシ科のケシはローマ神話では眠りや死と再生のシンボルでした。勿論ケシの実の乳液である阿片(モルヒネ)の効能のことです。真っ赤な美しい花はキリストの流した血にも例えられ、小麦畑に点々とヒナゲシの紅い花が描かれる印象派の絵にはそうした背景があるそうです。

中国には8世紀ころインドを通じてもたらされ、ヒナゲシの紅い花はこんどは、劉邦と項羽の戦いで項羽と共に命を絶った美女・虞美人の流した紅い血に例えられ「虞美人草」と言われるようになりました。

江戸時代初期には「一粒金丹」

現在いろいろある園芸品種のケシの花には麻薬成分はありません。漢方ではケシの実から種子を除いた罌粟殻を使います。実が罌(カメ)に似ていて種子が粟のようだという命名です。実が米俵に似て、種子が米粒に似ているから「御米穀」とも。麻薬成分の鎮痛効果や催眠効果、鎮咳効果などが利用されます。

日本には室町時代に伝わったといわれます。江戸時代初期には津軽地方で栽培され「一粒金丹」という民間薬に、北方の津軽らしくオットセイ(精力剤)などと共に「阿芙蓉」の名で配合されていました。勿論現在では「麻薬取締法」で栽培も使用も禁止されています。

現在、私たちが見ることのできるケシは、ケシ粒のようなケシの種子です。つまりポピーシード。アンパンのトッピングです。クッキーの粒々。そして七味唐辛子のプツプツ。これらにも麻薬成分はありません。乾燥した生のものには味も香もありませんが、よく煎るとナッツのようなほのかな香が出て、プツプツの食感もよいので様々な料理に使われます。