95.唐辛子(辣椒・蕃椒)—民間薬として有名なのは糾勵根—という湿布薬

痛いところ、冷えて困るところに湿布

カレー粉や七味唐辛子、また、最近流行の韓国食材コチュジャンのコチュが唐辛子です。栽培植物では古いものらしく5000年前にさかのぼるといわれてますが、それは新大陸でのはなし。コロンブスが世界に広めるまでは知られていなかった植物です。ですから世界中に広まってからせいぜい500年。コチュジャンやキムチの歴史も、そう旧いものではありません。

江戸時代の前期の書物には「本邦で用いている蕃椒は煙草と相前後して渡来してからまだ100年も経ていない」とあり、中頃の書物には、「京にては高麗胡椒と呼ぶ。秀吉公朝鮮より種を持ち来る。故に唐カラシという。西国及び仙台にては胡椒と呼ぶ。奥羽、上総、遠州では"なんばん"と呼ぶ」とあります。中国でも南方から入ってきたから蕃椒(バンショウ)と呼びます。蕃という字は、日本語でいえば南蛮(ポルトガル人)の蛮。カラシメンタイコが長崎名物なわけ。

「ナス科のピーマンの辛いやつ」でお分かりでしょう。鷹の爪などといって、そのまま漬物に入れたりします。ピーマンを栽培していると、30コに1コくらい真っ赤な変わりものができて、これが辛いかなーと思うとそうでもない。けれど外観は青くて変わらないのに辛くて苦いものが時々あって、唐辛子の親戚だなーと実感することがあります。ピーマンより小型の「ししとう」は唐辛子に近いけれどそんなに辛くはありません。

西洋ではコロンブス以降またたく間に普及したらしく、「この植物(Red pepper)は同様の効果のある胡椒(white or black pepper)の代用として各地で使われている。それは温め、散じ、除く、冷えた胃を強くし、その運動を促す。膏薬にすればあらゆる腫れものを除く」とあります。

外用薬としては、トウガラシを刻みホワイトリカーに漬けておいたものを布でこせば、トウガラシチンキの出来上がり。痛いところ、冷えて困るところに湿布します。最近の暖める湿布薬にもたいていこのチンキが入ってますが、日本の民間薬として有名なのは糾勵根(キューレーコン)という湿布薬。トウガラシの他10種類の生薬を混ぜた薬で、これを水で練って患部に貼ると実に効果的です。外傷ばかりでなく咳のとまらない時、胸に湿布するとよい。
当院にもずっと常備して患者さんに勧めるのですが、手間がかかるためか最近の皆さんは使ってくれませんね。