72.塩—空気や水と並ぶ根本的なもの—

漢方では腎や骨と関係する

漢方医学では陰陽五行説にのっとって診断治療体系ができていますが、五行のうち五味というと酸苦甘辛鹹(サン、ク、カン、シン、カン)の五つをいいます。砂糖は三番目の甘(カン)、もちろん漢方でいう甘は穀類の自然の甘さです。塩は、最後の鹹でこれもカンと読みます。シオカライという味で腎や骨と関係することになっています。

私が子供の頃、昭和30年頃だと思いますが、マラソンのコースが家の近くを通ったことがありました。オールドファンには懐かしい当時の日本のトップランナー、浜村、広島、山田敬三といった選手たちの首や顔に白い粉がびっしりついているのが不思議でした。聞けば、汗が乾いて塩が吹き出ているというのです。現在のように水分を補給しながらのスピードマラソンではなく、運動中に水を補給するのは間違いと思われていた耐久レースの時代です。

現代医学では、生理食塩水として

人類は岩塩、又は海水なしでは生存できません。
岩塩にはニガリ成分(食塩以外の塩類)が少ないのでそのままなめられますが、日本では越後(新潟)の謙信が甲斐(山梨)の信玄に塩を贈った(敵に塩を贈る)ように海水からニガリを除いて塩をとります。海水のままではニガリが多すぎて食用にはならず、日本の製塩の歴史は、ニガリをうまく取り除く歴史でした。昭和40年代にイオン交換樹脂法が普及し、ついに99%純粋の食塩が一般になりましたが、これは味に深みがないし、自然からかけ離れているというので、昨今自然塩が流行していますが、これは適量のニガリをまぜた再生塩です。

肉食動物は、塩分を肉や血液からとれますから塩はそんなに要りません。馬や牛に時々大量の塩水を飲ませるように、草食動物や農耕中心の私達の先祖には塩は不可欠でした。御飯に塩分、野菜(漬物)に塩分は必須なのです。高血圧の原因として塩が敵視されていますが、塩分の摂取量が減ったのは、日本人の食生活が動物性蛋白をたくさんとるようになったことの現れです。

薬としては、2000年前には岩塩と生薬と一緒に煎じた利尿剤の記載があります。現在では外用薬としての塩健康法が話題になっています。現代医学では、生理食塩水として広く使われているのはご承知の通りです。