タンパク質の消化を促進する山査子と合わせた漢方薬も有名
米のデンプンを糖化して飴(アメ)を作り、その糖分を発酵させて酢や酒を造る。その発酵のとき活躍するのが麹。
先日所用で北海道に行き、美味しい麹漬けを頂戴したので、このシリーズにまだ登場していなかったと思いつきました。炊きあがった米や麦を30度くらいに冷まし、麹菌という黴の一種を混ぜて繁殖させたもの。昔は中国の古医書に「米や麦をつき砕いて茹で汁などで団子にし、楮葉に包んで風の当たるところに49日かけておけばできあがる」とあるように、自然の発酵菌で長時間かけて作っていた。
このように団子状のものと、日本の麹のようにばらばらの米を発酵させたものと2種類ある。作用別の分類では、ここで述べているようにデンプンを発酵させる力の強い麹で酢や酒を造り、一方タンパク質を発酵させるに適した麹では味噌やチーズを造る。
麹を作るとき室(むろ)に寝かした米に黄色の黴で花が咲いたように見えるから米の花「糀」とも書く。「麹」という字は改めてよく見ると、「麦」と「米」が、自然の発酵菌が豊富に付着している葉や藁などに「包」まれて発酵している様子をそのまま字にしたもの。だから米だけから作るコウジは米麹だし、麦だけから作るコウジは麦麹と区別する。素人が麹をつくるのは難しいので、麹屋さんから買って来て味噌などを造る。
当院で作っている味噌は麦粒が残っている方が好きなので麦麹を使うことが多い。一般にはただ麹といえば米のほうを指すことが多いようだ。これなしでお酒は造れないから「酒母」ともいう。
古医書に「昔の人は麹を用いるのに多くは酒造りに使った。後になって医者が神麹を造りもっぱら薬として用いた」とあるように、薬としての麹は一般の麹とはすこし異なる。薬には必ずある種の信仰、神仙思想などがともなうから、「諸神、聚会の日にこれを造る」とあり、ここから薬としての麹を神麹(しんきく)という。
薬としての麹は他に六曲ともいい、これはもともと6種の植物を入れて造った麹という意味。青蒿・蒼耳・野蓼・杏仁・赤小豆などの生薬の細粉に米や麦を混ぜて長時間かけて発酵させたもの。効能はもちろん消化の促進。早い話がエビオスのことです(若い人はエビオスを知らない?)。どちらかといえば麹は炭水化物の消化が得意で、タンパク質の消化を促進する山査子と合わせた漢方薬(焦三仙)も有名です。