日干したギンナンを刻んで咳止めなどの処方に
先日所用で茨城の大洗に行きましたが、大樹の好きな私は、ついでに近くの二ヵ所のお寺の境内にある銀杏の巨樹を見てまわりました。銀杏は、生きた化石ともいうべき旧い植物で、分類上、イチョウ科、イチョウ目、イチョウで兄弟、親戚のない独特の植物です。なるほどその樹形は、一般の広葉樹の大樹のように枝を広く張るわけでなく、どちらかいえば上へ上へと伸びている。でも杉の大樹のように上へ上へすっきり伸びているのとは違い、ずんぐりこんもりした印象もあり、似た樹を思い浮かべることが難しい。
中国原産で平安時代頃に日本に渡来し、全国で栽培されてます。日本語では普通イチョウもギンナンも銀杏と書きますが、中国語でその実が銀(白)色の杏に似ているから銀杏(インアン)というのをそのまま輸入してギンナン。葉の形を中国では鴨の脚の水かきに似ているとして鴨脚(ヤーチャオ)ともいうので、イチョウはここからきています。中国では公孫樹ともいいますが、これはイチョウの成長が遅くて実を結ぶのに孫の代まで時間がかかる、からきています。
日本のイチョウを世界的に有名にしたのは、明治29年、平瀬博士による精子(精虫)の発見。イチョウが雌雄異株のことは御存知の通りですが、春に雄木から飛散する花粉が雌木の花にキャッチされたあと、そこで発育し、秋には動物の精子のように鞭毛をもち動きまわって受精され実を結ぶのです。こんな植物は他にはないので冒頭に述べたように分類状一属一種になったのです。
今回私のみた銀杏の大樹は二本とも雌木で銀杏(ギンナン)がすずなりでした。近くに雄の銀杏は見当たらず、どこから飛散してきた花粉をキャッチしたのだろうかと誠に自然の不思議さにうたれます。杉林のあの白いモウモウとした花粉の飛散なら納得できますが。それにあの無数の実が全部ことごとく受精しているのでしょうか。鶏卵の無精卵のような実はないのでしょうか?
落下した実の果肉はちょっと顔をそむける異臭で、洗い落とすのが大変な作業です。15年くらい前当院に来られていたお年寄りは青山墓地の中のギンナンを拾ってきれいに洗ってよく持ってきてくれました。異臭や手をかぶれさす成分は、あの殻を破って初めて出てくる種子の中にもあって、これがギンナンの薬効でもあり、ちょいと癖のある、またクセになる旨味でもあります。
漢方薬としては日干したギンナンを刻んで咳止めなどの処方に入れます。また、葉には抗活性酸素作用があるとしてヨーロッパでブームになり、ヨーロッパには銀杏の木がありませんから日本から葉が大量に輸出されているといいます。日本でもイチョウ葉の健康食品が出回っているようです。