絹のようなヒゲだからコーンシルク
民間薬としてよく知られている、トウモロコシの鬚のことです。イネ科の一年生草。
トウモロコシの原産は中南米で、紀元前二千年には栽培されていたようです。米や小麦のない中南米ではトウモロコシは唯一の安定した主食であり、これがマヤ文明とかインカ文明などを開花させたのです。ちなみにインカ文明の「アンデス」地方とは、山の斜面にインディオが石積みの技術を駆使して作った整然とした美しいトウモロコシの段々畑を見たスペイン人がつけた名前です[スペイン語で段々畑=アンデネス]。現在でもトウモロコシを粉にして焼いたトルティニヤ、それに肉や野菜を包んだタコスなどは中南米の主食で、日本でも流行しています。
タバコと同様、コロンブス一行により旧大陸にもたらされたトウモロコシは、品種改良をともないながら、たちまち世界中にひろまり、小麦、トウモロコシ、米の三大穀物になりました。日本へは16世紀にポルトガルの宣教師によって伝えられました。五穀の黍(キビ)にも相当するポルトガルからきた穀物だから南蛮黍と呼ばれました。中国でも周辺地方の名前から蜀黍。唐蜀黍(トウモロコシ)とは、要するに外国・外国・黍という意味ですし、玉蜀黍と書くときは貴重・外国・黍ということです。
大型のイネ科のトウモロコシは花が雌雄別々に咲きますから、風媒による他家受粉で結実します。アニマルファームのように少量のスウィートコーンを栽培するときは、自然に任せないで、茎の先端に咲く雄花(雌しべが退化している)の花粉を茎の中程の節に2~3個咲く雌花の花柱にパラパラとつけてあげます。こうして受粉させるのです。結実した実の先端のこの花柱が、トウモロコシの毛、中国では玉米鬚、絹のようだから英語ではコーンシルクと呼ばれる今回の薬です。
トウモロコシの最大の消費は家畜の飼料。食用としては、デンプン(コーンスターチ)をさまざまに用いますが、薬剤の賦形薬にもなります。コーンオイルは食品の他、薬では軟膏の基材になります。さてコーンシルクですが、むしりとって乾燥したものは煎じて、欧米でも古くから利尿剤、利胆剤としてつかわれていました。中国でもこれを調合した新しい方剤があります。日本でもスイカなどとともに、利尿剤として腎炎などの浮腫に民間薬としてつかわれています。