甘みは砂糖の150倍。漢方の「国老」
甘みが砂糖の150倍といわれる「甘い草」、甘草の根は、甘味料や薬として使われています。「良薬は口に苦し」と言いますが、甘みもこれくらいになるとハンパではなく、この甘さは立派な薬だと判断した人間はやはりたいしたもので、洋の東西を問わず古来から様々な薬効が知られています。
漢方生薬の甘草は、さまざまな漢方薬に含まれており、最も多量に多様な処方に使われていることから、重責を担う「国老」という別名があるくらいです。また甘草一味だけの「甘草湯」という処方もあり、さまざまな痛みによく効くので、憂いを忘れる「忘憂湯」と呼ばれます。
広大な中国の自生地
以前私は、中国の北方、内モンゴル自治区近くの砂漠地帯の、甘草の自生地を訪ねてきました。このへんは、万里の長城の西の端にあたり、旧満州あたりの東北甘草に対して西北甘草といわれます。
360度なーんにもない砂漠、私どものバスが走ってきた道路が一本、向こうの地平線からまっすぐ走って反対の地平線に消えている他はなにもなし。一面に甘草がかなりの密度で自生しており、羊飼いが羊に甘草の葉を食べさせています。一区画を人間が収穫しても、残った根から数年後には再び元に戻るという、理想的、農業というか自生地です。
ここの羊は甘草の葉を食べているから、このマトンを食べるとお腹の痛みが治るとか。嘘みたいですね。肉をたくさん食って胃の痛みをとるなんてあまり聞かないでしょう。
薬効成分はグリチルリチン。加水分解するとおなじみのグロン酸。グリチルリチンは肝臓病に効くというのは、現代医学の疑問の多い常識ですが、グロン酸が疲労回復に効くというのは、これはもうデタラメです。
甘草は日本国内でも栽培が試みられたことがあるし、アニマルファームでもしばらく生かしておいたことがありますが、国内では量産できず、江戸時代では毎年60トン、現代では毎年1万トンくらい輸入しています。大半は、醤油の甘味やタバコの味付けにつかわれ、残りが漢方生薬として使われています。