46.クロモジ(黒文字・釣樟・樟脳・楠木)—虫歯を防ぐ口中の消毒、清涼剤—

高級楊枝に使われる

今回は食べるわけではないが、日常的に口に入れる、という意味でクロモジ。
まず樟(クスノキ)・クスノキ科の話から。クスノキは暖地に多い常緑高木で、伊豆半島などの巨木巡りをすると、樹高40m以上にも達する巨大なクスノキに神社や寺院でしばしば出会うことができます。巨木の好きな私は思わず合掌してしまう。

関東地方以南、四国、九州から台湾、中国南部、インドシナに分布し、丈夫で育ちやすいので各地に植えられています。木材は黄褐色~紅褐色で比較的軽く加工しやすく、美しい木目があり、大材が得られ、またショウノウを含むため耐朽性、耐虫害性がきわめて高いので、社寺建築の柱や土台に、彫刻欄間や仏像などの彫刻によく用いられる。古くは丸木舟もクスノキで作ったといいます。

クスノキ科の樹木は世界中の暖地に40属余・約2000種ありますが、やはり東南アジアに多い。葉をはじめ植物体全体に精油成分の樟脳 (ショウノウ)を含有する組織があり、全体に芳香をもつのが最大の特徴。この科の有用樹木としては他にも芳香成分を利用するゲッケイジュ、ニッケイ属の数種、果実のアボカドなどがあります。

クロモジ(黒文字)。大半は常緑高木であるクスノキ科の中では、日本のクロモジは落葉性で、高さも数mの落葉低木です。北海道渡島半島以南の日本全土に分布する。樹皮は灰褐色または黒緑色、小枝は黄緑色でしばしば黒斑があるので、和名は黒文字。

このクロモジ属 は日本に数種あり、漢方生薬としては、徐福伝説のテンダイウヤク(天台烏薬)が有名。江戸時代に中国から渡来し各地に野生化している。根の一部が肥厚し、芳香健胃剤として腹痛や生理痛に用いられます。

クロモジの材は芳香をもち、噛むと甘い香りがするので、皮つきのまま削ってお馴染みの"ようじ(楊枝)"に用いられています。ちょっとした店では「爪楊枝ちょうだい」のかわりに「黒文字おねがい」と言ってほしい。このクロモジの先を砕いて房状にしたものを「ふさ楊枝」といって歯ブラシとして、大正末期まで使われていたといいます。

爪楊枝はもちろん歯間ブラシ。枝葉にはクスノキ科共通の精油成分を含むクロモジ油があるので、虫歯を防ぐ口中の消毒、清涼剤として使われました。漢方薬には処方されないが、民間薬として煎じて腹痛などに、また粉末、浴剤にして皮膚病などに用いられました。

こうした香木には霊力があると考えられ、嘗て奥羽の山村ではマタギが狩りのあとの毛祭で、獲物の一部を切ってこの木に挟んで、山の神に供える風習があったといいます。