鮑は巻き貝
ミミガイ科の巻き貝の大型のもので、数種類が食用になるが、肉質により、水煮用、生食用、酒蒸し、などに供される。乾鮑は中国料理の材料に使われる。「磯の鮑の片思い」というように、貝殻が両面にないので、縁起がわるいというのは大間違い。
これは、蛤などの二枚貝と比較してしまう間違いで、そもそもアワビは、サザエなどと同じ「巻き貝」。成長とともに、巻きの部分が小さくなり、はじめはあったサザエの蓋に相当する部分も消失し最後の巻きが大きく発達したものです。この上面が足に相当し直接海底の岩などに付着している。頭には一対の触覚と眼があり、口には多くの歯があり海藻を削りとって食べるのです。
平安時代の『延喜式』にはアワビの加工品のことがたくさん書かれています。乾燥品は中国に輸出されたり、貝殻は内側の光沢が美しいので加工品に、後述のように眼病のクスリに、真珠も採取されたり(真珠はこうした貝類の病理産物、人でいえばカルシウム結石のこと)と、古来、重宝されてきたものです。
そこで忘れてならないのはアワビ熨斗。もともと保存食として、アワビの肉を薄くスライスし、乾燥して、生乾きのときに重石で引き延ばしてヒモ状にしたもの。のしイカの「のし」の当て字が「熨斗」です。この熨斗アワビは贈答品に添えられ、「このプレゼントは仏教でいう精進(不祝儀)ものではありません。」という意味で、動物性蛋白(腥・ナマグサもの)の乾燥アワビを添えたのです。
ご存じのように、この乾燥アワビのヒモは後、紙で作ったヒモに代用され、のし袋にかけてあるヒモとなりました。アワビは片思いだから縁起がわるいと悄げて帰ってくる亭主を、冗談じゃない、古来縁起物だと力説する気丈なお上さんは落語「アワビ熨斗」に登場しますね。
さてクスリとしては、アワビの殻を砕いたものが上記のように目薬として有名。目薬として有名なエビス草の種子「決明子」の動物版ということで「石決明」。ずばり「千里光」という別名も。亀の甲羅を砕いたものなどいくつかの生薬を配合した亀板湯などの方剤があります。頭に上った熱を冷ますクスリです。