36.菊花(黄甘菊・杭菊花・野菊花)—「杞菊地黄丸」などに配合。お歳よりの視力低下などに—

長寿の伝説

菊花

中国の古書に「南陽の山中に甘い水の流れる谷があった。上流には菊がたくさん咲いて花びらがながれてくる。この水を飲む民は長寿で150歳になるものも居た」「甘谷菊水」といわれる故事です。

日本でも『風土記』に「かひの国つるの郡に菊の咲く山がありその谷から流れる水を飲む人は鶴のように長寿だった」とあります。山梨県の都留市のことでしょう。

『万葉集』には菊の歌は登場しないそうですが、その前の『風土記』には早くもこのように中国由来の説話が翻案されていますので、菊が2000年前には中国から伝わっていたものか、日本原産のものがあったのか?というところです。
皇室と菊の関係はずっとあと、鎌倉時代の後鳥羽天皇が菊の紋を好んで以来とされてます。

菊の栽培種は中国でも日本でもたくさん知られてます。山形県で江戸時代に殿様が狩りにでかけ、一軒の農家で休息したところ菊の花のおひたしが出された。「これは美味である。百姓にはもってのほかである」といわれたところからこの食用菊はモッテノホカと呼ばれ、現在でも山形寒河江など(前回の紅花と同じ地方)で栽培されてます。

青森県では阿房宮という始皇帝に因んだ菊の品種の栽培がさかんで、花びらを型にいれ蒸して乾燥したものを「菊のり」といって販売しています。汁ものに、おひたしに、和え物などに。先日中国みやげに「杭白菊」を頂戴しましたが、これも菊のり状になっていてお湯をかけ茶わんのなかに咲く菊を観賞しながら味わいます。

スーパーで買う刺し身についている菊花は、愛知県豊橋で生産される小型の「つま菊」。毒消しの効能があるはずですが、実際はほとんどプラスチックの菊になってしまいましたね。

漢方では、さっきのお土産のように杭州の菊が有名で「杭菊花」として輸入されています。風邪くすりの「桑菊飲」や、お歳よりの視力低下などに使う「杞菊地黄丸」などに配合されます。

『紫式部日記』には菊の着せ綿が登場しますが、これも紅花と同様、菊花で染めた衣服を着ることが厄よけや不老長寿につながるという薬用の使われ方。枕のなかに菊花をいれる安眠のための薬枕としても使われます。