40.葛(くず)—風邪だけではなく用途は多様—

旺盛な繁殖力

葛

風邪を引くと葛根湯を服用する方がずいぶん増えてきました。
葛根湯はいろいろな作用をもち、どんな病気にもバカの一つ覚えで葛根湯を処方する「葛根湯医者」という悪口があったほどです。落語では待合室で待っている付き添いの方にも「ご退屈でしょう、葛根湯をどうぞ!」。その葛根湯の主役が葛根です。

この葛根自体が、実際多方面の効能を有するのですが、葛根湯以外の処方に取り入れられることは非常に少ない。例えば人参湯の主役の人参(朝鮮人参)が、他の色々の名前の処方の中に沢山組み入れられているとは、対照的で、その点では珍しい生薬です。

葛根は、畑の嫌われ者であると同時に、崖崩れを防ぐ土手の守護神。あの強く繁殖力の旺盛なツル性の葛の根です。
附属薬草園の畑の隣は雑木林ですが、夏になると葛根のツルが雑木をのみ込みながら我が畑に迫ってきます。それも巨大なスクリーンのように面として迫ってきます。その前に立つと絶対かなわないライオンやトラとバッタリ会ってしまって足がすくむような、そんな感じにおそわれます。

植物でもこのくらい異様に生命力を誇示するものは少ないのではないか。モーターの草刈り機で単身それにつっこんでゆく私は、ヤマタノオロチを退治するスサノオのようです。(ナンジャイ!)。その根がまた何ともふてぶてしい。「こん棒を振りかざす」と、言いますが、まさにそんな感じの長さと太さ(肥大の仕方)です。繊維質が非常に多く、そのツルと同様、煮ても焼いても食えない感じです。

肥大している葛根

ところで、漢方薬に用いられる薬草の「根っこ」は概して、地上部から想像されるよりは大きく肥大しています。だから神や霊気が宿っていう、何か効きそうだ、となったわけです。葛根が使われるようになったのも生命力の横溢したあの外観をぬきには考えられないでしょう。秋の七草のひとつで、花はお好きな方もあるでしょうが、私はあまり好きになれません。

さて、その葛根、昔、奈良の国栖(くず)地方の人々が薬として、或いはお菓子の原料として朝廷に献上したから「クズ」というのだという話や、主成分であるデンプンを採るのに、切り刻んで屑にするからクズというのだとか。

葛根湯に入れるくすりとしての葛根は、立方体に刻んだり板状に刻んだりして固く乾し上げたもの。食品としてはクズ粉・カタクリ粉。現在ではジャガイモやサツマイモのデンプンを、そう称して売ってますから本物は高価。
葛切り、葛もち等々、上品でおいしいですね。