118.ベニバナ(紅花・臙脂花)—紅花紫のものは血分に走り清熱の功あり—

各国で古来から利用

ベニバナ

紅花は菊科の二年草。野口雨情作詩の「ベニ屋の娘の言うことにゃ、サノ言うことにゃ……」という歌い出し、どうか若い人は祖父母の世代に尋ねてみて下さい。
ベニ屋は口紅屋のことで、紅花はクスリよりもまず染料で有名。黄色と赤色と二つの色素をもつ花弁を水でもむと赤い色素だけが残り、これを加工して、ルージュをつくったのです。

資生堂がつづけていた山形の農家との栽培契約が終わったのが昭和54年といいますから、化学染料におされて紅花栽培がすっかり凋落したのも最近のことです。江戸時代には京都や江戸で娘さんたちの化粧や着物の染めに大量に消費され、山形の最上川の周辺には、紅花大尽の紅花屋敷が(ちょうど小樽のニシン屋敷のように)たくさんあったといいます。現在の山形の「花笠祭り」の花笠は、紅花を採集するとき娘たちがかぶる笠のこと。

大陸の燕という国から伝わった染料という意味で臙脂の花、また、半島の国から伝わった染料という意味で韓呉藍と書き「からくれない」と読ませます。万葉集や百人一首にも「からくれない」はよく出てきますが、私のような者は落語の「からくれないに水くぐるとは」の「とは」の意味を物知りの御隠居に突っ込む長屋の熊さんの方を思い出します。ついでに『源氏物語』の末摘花、これは花を採集する時期、初めに黄色く咲いた花弁が紅色に変化した末にようやく摘む、という意味で、これも紅花のことです。

地中海沿岸原産の紅花は西洋でも古代からクスリ、防腐剤、染料として用いられ、『ギリシャ本草』にも記載されています。中国へも2000年前には伝わっていました。
日本へも奈良時代には伝わっていました。和名「くれのあい」(「久礼乃阿井」)が→「くれない」に変化したようです。

食品としては種子をしぼってとる紅花油が有名。リノール酸が豊富な健康食品といわれます。先述のように日本の紅花栽培はすっかり衰退してしまったので、この紅花油用の種子もほとんどが最大の生産国アメリカ産です。 花弁の色の薬効について、幕末の漢方家、森立之は「凡そ、紅花紫のものは血分に走り清熱の功あり」と書いていますが、紅花は血をきれいにして熱を清ます効果がありますので、いわゆる悪血をとる処方にたくさん組み込まれています。