48.クルミ(胡桃仁・胡桃青皮・分心木)—豊富なリノール酸が滋養強壮に—

体力をつけつつ症状をとっていく処方に配合

ナッツ類で漢方薬というと、桃仁と杏仁が馴染み深いものですが、クルミも食品であることはもちろん、薬として用いられます。

ゴマが胡麻であるのと同じく、中国の西域の漢民族以外の地域から入ってきた桃に似た実だから胡桃(コトウ)。クルミ科の落葉高木で西アジア原産のこの胡桃はペルシャグルミとかセイヨウクルミといわれ、2000年前には西域から中国へ、日本には遅く18世紀朝鮮半島経由で、また19世紀にはアメリカからも入ってきて、長野や山形で栽培されています。
これとは別のオニグルミやヒメグルミなどのクルミは古来日本からサハリンにかけて自生しており、縄文時代の遺跡から発掘されるクルミはこちらの方。

つい昭和30年代まで、主食の 100%をお米が占めるようになる前の時代までは、山地ではクリやシイなどとともにクルミも重要な主食のひとつでした。幹はヒッコリーといい、家具や昔のスキー板、最近では流行の燻製つくりの燻煙材につかわれます。

青い皮肉は(胡桃青皮)は下痢止めに、すりおろして水虫の外用薬に。熟してきたら、ちょうどギンナンのように果肉を洗い落とすとあの堅い殻です。年寄りが手掌に握ってもてあそんでいると、脳卒中の予防やリハビリになるといってましたネ。最近そういう年寄りを見かけなくなりました。

油成分が多いから潤す作用があり便秘などにも

私の小さい頃は、クルミ割りや金槌で割ってよく食べたものでしたが、最近はビールのつまみのナッツ類の中の破片としかお目にかかりません。殻をうまく割ると中のあの脳の形そっくりの種仁・胡桃仁がまるごとでてきます。殻の内側の薄い隔壁のことを分心木(ブンシンボク)。これは渋味を利用して、頻尿や帯下を止める薬(固渋薬)になります。

さて可食部分のナッツ胡桃仁ですが、もちろん木の実としてクリなどとともに日本人を支えてきた重要な食品。ただし、クリなどに比べるとデンプンが少なく脂が多すぎてしつこいですから、こればかりで主食とはいきません。その分クスリにはなるわけで、何といっても豊富な脂肪油(リノール酸)が滋養強壮に。

形象薬理といって、形から連想すれば、いかにも脳細胞を活性化しそう。体力の落ちたお年寄りのしつこい咳や痰に、体力をつけつつ症状をとっていく処方に配合されます。また、油成分が多いから潤す作用があり便秘などにも使われます。