花の形が船の錨に似る
今回は、いかり草:淫羊カク。実は数年前、南伊豆の薬用植物園からこの「碇草」の株を分けていただき、当院付属薬草園の畑に植えておきました。手が回らず放置しておいたのですが、進出する茅にもめげず、拡がりはしないものの生き残っていましたので、先日植え替えました。これで繁殖するはずです。
イカリソウは本州の東北地方から近畿地方までの太平洋側、主として山地の木陰に自生するメギ科の多年草。花弁の基部に長い距があり,花の形が船の錨(いかり) に似ることから錨草の名があります。
昔は石を大きな枝の股にしばり付けて重りとして海底に沈めたので「碇」と書き、現在でもイカリソウは「碇草」と表記します。
地下茎は硬く,多数の根があり草丈は30~50cm。中国では葉の付き方から「三枝九葉草」ともいわれます。イカリソウはトキワイカリソウ、キバナイカリソウなど日本には七種が自生するといわれますが、どれも小葉の縁に刺毛が多数ついて、ぎざぎざした感じになっているのが特徴です。
老化・更年期障害などにも広く使われる
中国の古医書には「之を服すれば人をして、好んで陰陽を為さしむ。西川北部に淫羊あり。一日百遍合す。けだし此のカクを食して致すところ。故に淫羊カクと名づく」という精力絶倫の羊を紹介した有名な文句があります。「陰陽を為す」と「合す」は性交すること。西川とは四川省の西部。「カク」とは豆に葉に似た葉といったほどの意味です。
このように葉が精力剤として古来有名ですが、実際には、茎の下部から切り取り全草を煎じ、あるいは酒につけて強壮薬として飲用します。また美しい花は観賞用としても栽培され、1830年ころシーボルトによりヨーロッパにもたらされたそうです。
生薬としてはイカリソウ属の中国産のホザキイカリソウ などが用いられ、日本産の種も代用されます。地上部にフラボノイドのイカリイン、地下部にアルカロイドのマグノフロリン などを含むとされ、これらには精液分泌促進作用があり、強精・強壮薬として陰萎、男性不妊などに用いられます。漢方的には「腎の陽虚」を補うとされ、男性ばかりでなく、婦人の多産による衰弱や、老化・更年期障害などにも広く使われます。
足腰の麻痺や痺れ・関節痛などにも用いられるのは「強筋骨」の作用もつよいからで「放杖草」といわれる所以です。杖などもう不要!というわけです。腎をつよくするのには「脾」からというので「仙霊脾」とも呼ばれ焼酎に漬けた「仙霊脾酒」が有名。そのほか市販の滋養強壮ドリンクや薬用養命酒などにも配合されています。